先日、国連安保理が全会一致で採択した新たな対北制裁決議に関して、「日本列島を核爆弾で海に沈める」との報道官声明を出した北朝鮮。前回掲載の記事「北朝鮮への『制裁強化』。なぜ中露は賛成せざるを得なかったのか」でもご紹介したとおり、金正恩政権はますます孤立を深めています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんは今回、北朝鮮危機の当事国以外にも広がりを見せる「金正恩包囲網」について詳細に伝えています。
もはや北朝鮮は「世界の孤児」、を証明する二つのできごと
前号「北朝鮮への『制裁強化』。なぜ中露は賛成せざるを得なかったのか」でお伝えしたように、国連安保理は9月11日、新たな北朝鮮制裁決議を、全会一致で採択しました。当初反対していた中国とロシアも賛成にまわった。これは、アメリカが、「石油全面禁輸」と「金正恩の資産凍結」を引っ込めたからです。つまり、アメリカが妥協したので、中ロも支持せざるを得なくなった。
これも前号で書いたように、アメリカは、外交、国連安保理を重視することで、支持をひろげています。逆に北朝鮮は、安保理を完全無視することで、「世界の孤児」になっている。今回は、そのことを証拠づける二つの事実に触れましょう。
北朝鮮大使を追放する意外な国々
「北朝鮮核問題」は、つい最近まで「東アジア限定の問題」と思われていました。なぜか? たとえば欧州や南米の人にとっては、「遠すぎる」ので、実感がわかないのです。普通の日本人は、「ウクライナ問題」「シリア問題」に興味ないでしょう? それと同じです。
ところが、このところ急に、世界の意識が変わってきました。たとえば北は8月29日、北海道上空を超える弾道ミサイルを発射した。その日、私はベラルーシの知人から、「日本の安全を祈る」というメールをいただきました。それで、「嗚呼、ベラルーシの人も、北朝鮮問題の行方を心配しているのだな」と少し驚いた。なぜ驚いたかというと、「ベラルーシは、東アジアから遠いから」。
そして、最近は、こんなニュースもあります。
北朝鮮大使を国外追放へ=核ミサイル「日韓に脅威」─メキシコ
9/8(金)6:53配信
【サンパウロ時事】メキシコ政府は7日、北朝鮮大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)として72時間以内に国外追放すると発表した。北朝鮮の核・ミサイル開発活動を理由にしている。核・ミサイル開発など北朝鮮の挑発をめぐり北朝鮮大使が追放されるのは極めて異例。
メキシコが北朝鮮大使を追放した。さらに、こちらをごらんください。
国外追放は「火に油」=北朝鮮大使、ペルーを非難
9/13(水)10:36配信
【リマ時事】北朝鮮の核・ミサイル開発を理由にペルー政府から国外退去を命じられたキム・ハクチョル北朝鮮大使は12日、首都リマの大使館前で声明を読み上げ、「ペルー政府の措置は法的、倫理的根拠に欠け、国際安全保障のためになるどころか、かえって火に油を注ぐものだ。抗議するとともに遺憾の意を表す」と非難した。これに対し、ペルーのルナ外相は記者団に「北朝鮮と関係を維持するのは不適切だ。関係は絶たないものの、外交レベルを下げる」と反論した。
メキシコとペルーが北朝鮮大使を追放した。これは、とても重要な事件です。アメリカ大陸に位置するメキシコとペルー。両国にとって、北朝鮮は全然脅威ではないでしょう? 北に対してなんのアクションを起こさなくても、誰も批判しないはずです。しかし、メキシコとペルーは、北朝鮮大使を追放することにした。「北朝鮮と付き合うことは悪いことで、損をすることだ」と判断したのでしょう。
世界の変化は、国連安保理重視の結果
実をいうと、国際世論は、いつも「日米側」にいたわけではありません。6月に欧州のテレビを見ていると、「世界でもっとも孤立している二人の指導者、トランプと金正恩がケンカしている」などと報道されていた。
その論調は、第1に、「金正恩もバカだが、トランプも同じぐらいバカ」。第2に、「北朝鮮は遠いから、欧州には関係ない」(もちろん、「関係ない」と断言はしていませんでしたが)。
ところが、アメリカは、今までになく「国連安保理重視」になった。
北朝鮮が、挑発行為をする。
→ 国連安保理が非難声明を出す。
→ アメリカ制裁決議案を提出。
→ 中ロが反対し、対案を出す。
→ アメリカ、中ロの意見を入れ、修正して再提出。
→ 中ロは、自分たちの意見が受け入れられたので、賛成せざるを得ない。
→ 北朝鮮制裁が強化される。
→ 北朝鮮、また挑発行為を行う。
→ 以下、同じことの繰り返し。しかし制裁は徐々に強化される。
こうして、国際世論は、日米側に徐々に傾き、北朝鮮は完全に孤立。中ロも北を守るのが、ますます難しくなってきている。これは、日米が、「国際世論を味方につけ、北朝鮮を孤立させる」「情報戦」「外交戦」を重視した結果です。