海外の原発会社を買収する日本企業の誤算

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今週のざっくばらん

『週刊 Life is beautiful』2015年3月10日号より一部抜粋

安倍政権+経産省+電力会社+経団連が原発再稼働に向けて突き進む理由に関しては、ここでも何度も書いてきたので省略しますが、問題はその歪んだ利害関係のために「長期的に見て日本という国のエネルギー政策をどうするか」という最も大切な部分の議論が、全くないがしろにされている点です。

原発が経済的に成り立たないことは、米国の電力会社が次々に原発から撤退していることからも、フランスのアレバ社の現状を見ても明確です(参照:French nuclear industry in turmoil as manufacturer buckles)。

福島第一での事故以来、さらに厳しくなった安全基準を満たすためのコストが莫大になり、去年一年間だけでアレバ社は 4.8 billion ユーロ(約6000億円)の赤字を計上することになったそうです。

たった一年間で、会社の時価総額に相当する赤字を計上する状態は、すでに営利企業としての経営が成り立っていないことを示し、こうなると大株主であるフランス政府がなんらかの形で救済しない限り、今後原発は作れなくなるし、原子力に大幅に依存したフランスのエネルギー政策そのものが破綻しかねません。

そろそろフランス国内でも、原発に対する風当たりが強くなってきたので、価値がゼロになる前にアレバ社は日立や東芝に売り抜けようという話も出ていることだと思います。イギリスの Horizon Nuclear Power Limited はすでに日立製作所に売却されているし(参照)、グローバル市場での「ババ抜き」が最終フェーズを迎えているように私には思えます。

「莫大な設備投資をして作ってしまった既存の原発を寿命が来るまでは使うべき」という理屈はまだ分かりますが、わざわざ外国の原発事業を買収したり、原発の輸出のために海外の原発事業に税金を投入したりする行為は、わざわざババを引きに行く行動に私には見えます。

 

『週刊 Life is beautiful』2015年3月10日号より一部抜粋

【2015年3月10日号の目次】
■今週のざっくばらん
・人生を賭けた大きな仕事
・原発ババ抜き
・マスコミの役割
■今週の TED ビデオ
・6 ways mushrooms can save the world
■私の目に止まった記事
・大阪工業大:「ロボット」核に新学部 17年春開設構想
・Why Steve Jobs Took Long Walks
・NASA: New “impossible” engine works, could change space travel forever
・Fashionistas take note: Uniqlo coming to Seattle
・Study: For every tech geek hired in Washington state, 7 jobs are added
・Population Of Humans Found To Have Adapted To Arsenic
・産業振興センターで一言「私はお金は要りません」と啖呵を切った料亭の女将
・ロボット社会の実現へ向け、V-Sido で低レイヤーを狙う
・Out of Japan’s Nuclear Disaster, New Indoor Farms Grow 100x More Food
■読者からのご質問・ご意見コーナー

 

『週刊 Life is beautiful』

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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