ロシア暗殺事件で囁かれる米国ウォール街と軍産複合体の関与

高城剛Kestutis Zitinevicius/Shutterstock
 

ネムツォフ氏は米国ウォール街と軍産複合体の代理人

『高城未来研究所「Future Report」』第194号より一部抜粋

今週は、ロシアで暗殺された政治家ボリス・ネムツォフ氏につきまして、私見たっぷりにお話ししたいと思います。

先週2月27日、ネムツォフ氏はモスクワ市内を女性と散歩中、車両から6発の銃撃があり、そのうち4発が命中して死亡しました。ネムツォフ氏は2日後の3月1日に行われる予定の、プーチン大統領のウクライナへの軍事介入に反対するデモの呼び掛け人であり、殺害は「政治的動機によるもの」という声も「一部欧米メディア」からは出ています。

現在、プーチン大統領の支持率は80%以上もあるのにたいし、ネムツォフ氏は9%の支持率しかありません。それは、ロシア国民の多くが、ネムツォフ氏が極めて米国に近い存在だと知っているからに他なりません。まずは、近年のネムツォフ氏の動向を振り返ってみましょう。

先週このコーナーでお伝えしましたウクライナを巡る政変劇として有名な「オレンジ革命」直前、2004年11月にウクライナでは民主的な大統領選挙によりヤヌコビッチが当選しましたが、不正選挙としてユシチェンコ陣営は暴力的なデモを行い政府施設を包囲。そしてその後、米国の後ろ盾をもってユシチェンコが大統領に就任したことは、先週お伝えしました。この米国傀儡のユシチェンコを支援していたのが、ネムツォフだったのです(その後、ユシチェンコ政権の顧問に就任しました)。

先週暗殺された際も、22歳のウクライナ人女性モデルと共に「夜の散歩」の際に襲撃され、現在、このモデル、アンナ・デュリスカワは、ロシア当局に軟禁されている、と欧米メディアが報じていますが、事実は、この女性が夜のこの時間に、ネムツォフ氏を外へ呼び出した、とロシアでは言われています。

さて、映画のようなこのストーリーは、まさに事実は小説より奇なりであり、考えられることは3パターンしかありません。ひとつめは、欧米メディアが合唱のように言う「プーチンが暗殺した」というもの。2つめは「プーチンが暗殺したと見せかけるためのもの」。3つめは、「プーチンが暗殺したように見せかけた、と見せかけたもの」。このみっつです。

しかし、ひとつめとみっつめは、支持率80%を超えるプーチンにとって、利得が見えません。いまさらネムツォフ氏になにを言われようが、怖いものはないはずです。「一部欧米メディア」では、ネムツォフ氏が「ロシア軍事行動の証拠を暴露する予定だった」と報道されていますが、これを言っているのはウクライナの親米ポロシェンコ大統領で、そのようなものがあるなら、とっくにカードとして切っていたはずです。ちなみに、レーガン政権で財務次官補を務めたロバーツ氏は、今回の事件に関し、「CIAがプーチンを攻撃する為に手駒のネムツォフを暗殺したのでなければ、露のナショナリストが彼を米の工作員と考えて殺したのだろう」とコメントしています。

もともとネムツォフ氏は、ポーランドを転覆させた「ソリダリノシチ」(連帯という意味の政党)の共同創設者/共同議長でした。この「ソリダリノシチ」は、CIAが資金提供したことがすでに明らかになっており、近年ネムツォフ氏は「ヨーロッパとの統合へ向かうウクライナを支持する」とも表明していました。そしてネムツォフ氏は、全米民主主義基金(NED)から資金提供を受けていたことも明らかになっています。NEDは、「中東の春」を企てたことでも知られる、事実上米国ネオコンの別動部隊です。

なにより、西側諸国の傀儡政権だったエリツェン時代の副首相を務めたのがネムツォフ氏で、ウォール街の意向により、ロシアの国富を転売し、自ら資産を築いた人物として有名でした。その際の盟友ホドルコフスキーは逮捕され(2013年に恩赦)、彼が作った「ロシア解放財団」の理事は、ヘンリー・キッシンジャーとジェイコブ・ロスチャイルドです。言い換えれば、ネムツォフ氏は米国ウォール街と軍産複合体の代理人なのです。

ロシア人は、バカではありません。なにより、ロシアのメディアは少なくとも多面的には物事を伝えます。

ネムツォフ氏が率いるはずだったウクライナでの戦争に反対する抗議(反プーチン)集会の数日前に、彼は暗殺されました。しかし、十万人を超えると言われていた追悼および決起集会「春の大行進」は、わずか1万5000人しか集まりませんでした(主催者発表8万人)。この参加者数が、ロシアの人々が今回の事件をいかに考えているか、なによりの事実だと思います。

一方、米国民の感情はマスメディアによって大きく動かされ、いまやイスラム国以上に、「敵国ロシア」心情は米国で大きく広がりはじめました。かつてのイラクのように、ゆっくりと米国は動きつつあります。

『高城未来研究所「Future Report」』第194号より一部抜粋

著者/高城剛(作家/クリエイティブ・ディレクター)
1964年生まれ。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。毎週2通に渡るメルマガは、注目ガジェットや海外移住のヒント、マクロビの始め方や読者の質問に懇切丁寧に答えるQ&Aコーナーなど「今知りたいこと」を網羅する。
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