世界の俯瞰図
『高城未来研究所「Future Report」』第188号より一部抜粋
今週は、多くのご質問を頂戴しましたイスラム国の日本人人質問題ににつきまして、俯瞰的視座を保つために、少し長めな私見をお話ししたいと思います。
イスラム国から人質殺害予告のあった直後、日本の報道を見ると、不思議なことに人質の正しい名前が漢字で報道されていました。飛行機事故など突発的な事故では、搭乗者の名前はカタカナだけで表示され、なぜならそれは海外であれば、名前は漢字ではなく、アルファベット表記でしか登録されていないからです。これは、イスラム国も同じであり、人質の名前を漢字で表記することは絶対にありません。
このことからもわかりますように、この事件は突発的な事件ではなく、政府は昨年から知っていたのに放置同然(と思われても仕方がない案件)だったことが明らかです。
今回、人質であると言われている湯川さんは昨年夏に、後藤さんは11月にイスラム国に拘束され、政府もそのことを知っていましたが(主に外務省と公安外事)、日本では、集団的自衛権を推し進める時期で、また年末の選挙もあり、彼らの拘束につきましては、事実上「なかったこと」にされた経緯があります。
本来、中東に早々に対策本部を作らねばならないのは、遅くとも昨年末までであり、今回、表立ってしまったので、「仕方がなく」ヨルダンに対策本部を作ることに至りました。本来は、歴史的関係から日本国政府は親イスラエルのヨルダンに頼るべきではなく、そのあたりの関係をイスラム国もわかっていますので、ヨルダンに拘束されている人物の釈放を条件にしています。このあたりを見ても、日本の外交力交渉力よりイスラム国のほうが一枚上手のように感じます。
では一体、なぜこの時期に日本の人質が表立つようになったのでしょうか?それは間違いなく、「2億ドルの支援金を日本から捻出する」と安倍首相が中東で発表した直後に、長い間温存しておいた日本人人質を殺害する予告、および同額の身代金要求を出しことからも明らかで、また、海外報道を見ても、「日本がイスラム国を挑発」といくつもの新聞に報道されているように、安倍首相の中東介入にあります。
ではなぜ、日本国現政権がこのようなことが発生するリスクを知りながら、「イスラム国を挑発」するような行動に出たのでしょうか?歴史的に見ても、石油が命綱の日本経済において、中東に介入するのは得策ではないことは明らかですが、その理由は、米国共和党のネオコンの意向に沿うものだからです。
以前からこのメールマガジンでお伝えしておりますうように、共和党のネオコン(および軍産複合体)は、中東、ウクライナを中心としたロシア隣接地域、そして東アジアの3地域で緊張関係が続き、時には開戦になるような状況が、もっとも好ましいと考えています。
そこで、米国共和党と共闘政権(事実上下請け政権)である安倍内閣は、共和党ネオコンの表のトップと言われるマケイン議員(米国軍事委員長)と、先日イスラエルで会談しました。それは、イスラエルの右派ネタニヤフ政権が3月の総選挙で負けそうですので、ネタニヤフ政権の手柄を作ることを目的とし、多くの日本企業を同行させ(軍事企業も含まれます)、事実上右派ネタニヤフ政権を米国共和党と共に支援するために行動しました。安倍首相は中東和平を訴えかける「ポーズ」を取っていますが(パレスチナ自治区にも訪れ)、実際は真逆の行動を取っているのが世界的な目指しだと思います(ですので、人質が殺害されることが起きます)。
日本国政府は、人質事件が表立ってからあわてて米国現政権(民主党)とコンタクトをはじめていますが(安倍首相は、まさか日本人がISISに殺害されることになるとは、夢にも思っていなかったと思います)、米国民主党からしてみれば、オバマ大統領が会わないとまで明言しているイスラエルに出向き、しかも、共和党のマケイン議員と会談して、2億ドルを対イスラム国対策に捻出すると中東で発言して火に油を注いだ安倍政権の要望に(人道支援と言い訳をしていますが通らないことは国際社会では明らかです)、答える理由はひとつもなく、米国の国益からしても介入するメリットがありません。ですので、本気で対応するわけがありません。
また、頼りの米国共和党は、緊張関係が強まることや紛争が起きた方が良いと思っておりますので(理想的には、戦争が起きて勝つことではなく、いつまでも緊張や紛争が続くこと)、いろいろ内々には現政権に話すのでしょうが、実際は無視することが最良の手立てだと考えるはずです。そうすれば、日本が自衛隊の中東派兵、そして憲法改正へと着々と進めさせることができるからです。よって、残る手立ては「裏金で解決」しかありません。
『高城未来研究所「Future Report」』第188号より一部抜粋
著者/高城剛
1964年生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。
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