安倍首相と同じく、今井秘書官も国民が知りたい肝心なことは一切喋らない人である。そのことが、同誌6月号のインタビュー記事でよくわかった。
今井氏はメディアの単独インタビューに応じたことはなかった。その人がなぜ突然…。インタビューしたノンフィクション作家、森功氏は前文にこう書いている。
「私はこの日の午後、今井氏にこれまでの取材成果を踏まえて事実関係を問ういくつかの詳しい質問を官邸にFAXで送っていた。すると夕刻、今井氏から担当編集者に「これはしっかり説明にうかがいたい」と電話があり、急遽、インタビューする運びとなった」
森氏は同誌に「『総理の分身』豪腕秘書官の疑惑」と題する記事を寄稿。そのなかで取り上げたモリカケ疑惑や、ロシア外交をめぐる外務省との軋轢など、いくつかの問題について、質問を送ったようだ。
森氏の言う「この日」は4月下旬のことらしく、文芸春秋社に今井氏が「どうせ批判されるなら正当に批判されたいと思って」と皮肉を言いながらやってきたという。
今井秘書官は疑惑のキーマンとされ、野党から証人喚問まで要求されている。官邸記者クラブのメンバーは、オフレコ懇談でエサ情報を与え、情報遮断を恐れさせることによって、ある程度コントロールできる。しかし、フリーのノンフィクションライターである森氏の場合は、そうはいかない。
昨年末、森氏は「悪だくみ 『加計学園』の悲願を叶えた総理の欺瞞」という著作を刊行、さらに文芸春秋で今井氏自身に焦点をあてる記事を今後も、かなりの分量で出稿するかまえをみせている。
アメとムチでメディアを抑え込む安倍官邸の司令塔でもある今井氏は、書き放題を恐れたのであろう。ブレーキをかけなければという焦りからか、ついに黒子であるはずの首相秘書官でありながら月刊誌のインタビューに応じるという、これまでにない行動を起こした。
おかげで、文藝春秋は6月号において、森氏の記事「『総理の分身』豪腕秘書官の疑惑」と、今井氏へのインタビュー記事「今井首相秘書官一問一答」を併載し、インタビュー記事のほうを表紙の目玉に据えることに成功した。
加計学園問題に関して文藝春秋社は、週刊文春で前川喜平氏の告白インタビュー記事を朝日新聞とともに他に先がけて報じた。今井尚哉氏についても、「東芝『原発大暴走』を後押しした安倍首相秘書官 今井尚哉」と題する文春2017年4月13日号の記事を放ち、話題を呼んだ。
このところ、安倍官邸がらみのヒット記事が陰をひそめた感があっただけに、官邸司令塔の来訪は願ってもないことだっただろう。
同誌は今井インタビューに「昭恵夫人が無関係とは言えない」という大見出しをつけた。森友事件に安倍夫妻が関係したと秘書官が認めたのだとすれば、超ド級のニュースである。まずは、その部分をみてみよう。
「ーいま安倍政権は窮地に立たされています。これはとにもかくにも、森友・加計問題における数々の疑問に対して国民が納得できる説明がなされていないからじゃないですか。」
今井「そこは安倍政権として正直に説明していくほかありません。…森友問題は、いくら値引きしろとか、そういう話に昭恵夫人がかかわっていないことだけは間違いありませんが、交渉の過程で名前があがっていたのは事実ですから、無関係とは言えません。…安倍総理にも間違いなく道義的責任があります。だから、この点に関しては、安倍さんにも進言して、国会で謝罪してもらいました。」
国有地値引きにはかかわっていないが、無関係とは言えない。だから謝罪した。それでいいではないか。国民が納得できないのなら正直に説明していくほかないー。いかにも勝手な解釈である。正直に説明しないからこうなったのだ。
もとはといえば、森友学園への国有地売却価格だけは非開示にされ、それに疑問を持った豊中市議らが動き出したからこそ、本当のことが明らかになったのである。安倍夫妻案件でなければ、財務省が特別扱いしないし、ましてや決裁文書を改ざんすることもない。
佐川宣寿前国税庁長官と今井氏は財務省、経産省と、省こそ違うが82年の同期入省組で、若いころはよく飲みに行った間柄だという。しかし、今井氏は佐川氏の携帯やメールアドレスも知らないし、森友学園の件は国会で問題になるまで知らなかったと主張する。
つまり、森友問題への関与を全面否定したわけだが、その論拠は薄弱だ。
「森友学園に僕が関与していれば大阪地検に呼び出されているはずでしょう」。
これは、単なるご都合主義に過ぎない。