MicrosoftでWindows95の設計に携わって「右クリック」などを現在の形にし2000年に退社、以来ベンチャー企業を率いて活躍する世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、退社のきっかけとなった名著『イノベーションのジレンマ』について触れつつ、Microsoft凋落のきっかけになったともいえるMicrosoft社内での「とある出来事」について明かしています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年4月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
『イノベーションのジレンマ』新解釈
クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』という本が、私がMicrosoftを辞めるきっかけを作ったという話は、ブログなどに何度も書いてきました(参照:図解、イノベーションのジレンマ)。大企業と比べると、資本力も人的リソースもはるかに劣るベンチャー企業になぜチャンスがあるのかを明確に説明している本書は、私に限らず起業家精神に溢れた人たちにとってのバイブルとも言える名著です。
しかし、実際に自分でベンチャー企業を立ち上げ、かつ、多くの大企業とのビジネスをしてきた結果、このジレンマの実態がより明確に見えてきました。
クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』の中で唱えている説は、既存の市場で成功している企業は、既存の顧客を大切にするあまり、(顧客を満足させるには問題となる)根本的な欠点があるものの、はるかに安い、小さい、早いなどの長所を持つ破壊的イノベーションの可能性を過小評価してしまい、(失うものがなく、破壊的イノベーションに社運をかけることのできる)ベンチャー企業に負けてしまう、というものです。
確かに、この説に当てはまる例は数多くあるし、私自身も目撃して来ました(Microsoft OfficeとGoogle Drive、もしくは、Microsoft WindowsとLinux)。しかし、それだけでは、資金力に余裕のある大企業がなぜ、その手の破壊的イノベーションに全くと言って良いほど投資できないのかが説明できないと思うのです。