先日掲載の「海外からも疑問、詩織さん性的暴行事件になぜ日本は沈黙するのか」等でもお伝えしたとおり、ジャーナリストの山口敬之氏に対して準強姦容疑で取られた逮捕状の執行を土壇場で回避し、その納得の行く理由の説明も拒み続ける警察サイド。「事件」はこのまま有耶無耶にされてしまうのでしょうか。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、これまでに明らかになっているさまざまな「証拠」などを上げつつ疑惑の真相に迫るとともに、この国が陥りつつある民主主義の機能不全に対して苦言を呈しています。
捜査資料を見ずに山口氏逮捕の中止を命じた警視庁刑事部長
「企業の本社と支店のような関係」と、警察官僚は言う。警視庁と所轄警察についてである。
だから、本社である警視庁の刑事部長、中村格氏(現・警察庁長官官房総括審議官)は、いちいち所轄の高輪署にある捜査資料など読まないのだとか。
それなら、どういう根拠で『総理』なる本の著者、山口敬之氏を、高輪署員が準強姦容疑で捕まえる直前、中村刑事部長は逮捕状執行の取りやめを命じたのか。
2月15日、超党派で集まった野党議員たちは、警察庁、法務省、最高裁(事務総局検察審査会担当)へのヒアリングで、口々に逮捕状執行停止の異常さを指摘した。
その背景には、安倍官邸への強い不信感がある。今井尚哉秘書官らかつてないマッチョな陣容で首相の周囲を固め、幹部官僚の人事権を握って、歪んだヒラメ行政を招いている。検察や警察も同じことだ。首相に嫌われたら左遷される。そんな恐怖心が彼らを支配している。
中村刑事部長(当時)にとっては、事件の内容など、どうでもよかったのではないか。少し前まで菅官房長官の秘書官だった。山口氏とは知らぬ仲でもない。おそらく、山口氏がメールでやりとりする間柄の内閣情報官、北村滋氏ともこの件について連絡をとりあっただろう。
山口氏を逮捕したら、総理はどう思うのか。エリート警察官僚として順調に出世してきた中村氏のことである。捜査より、組織の中での立場や、官邸からの評価が、彼にとって重要だったのではないだろうか。いずれ、警察庁長官をめざす身だ。
エリート警察官僚と、現場の捜査員の意識の大きな乖離。日本の警察組織の抱える深刻な問題である。
しかし、今回のように、所轄警察の捜査をもとに検察が請求し裁判所が証拠、証言を確認したうえで発行した逮捕状を、誰もが納得できる事情もなく、本部の刑事部長一人の判断で、ただの紙切れにしてしまうというケースは、警察の歴史上、きわめて稀ではないかと思われる。
もちろん警察庁は「逮捕状を使わないことはある」と主張する。ならば、逮捕状をとって執行しなかった件数はどのくらいあるのかと聞いても、答えない。「高輪署だけでいいから、何件あるか調べてもらいたい」と野党議員が食い下がったが、「調べるつもりはない」と突っぱねた。
簡単な調査でさえ拒否するのは、実際にはそんなケースがないからだろう。そして、拒否する理由は「不起訴となり、検察審査会でも不起訴相当の結論が出たからだ」という。またこの論理をもって、逮捕をストップさせた中村氏は正しかったとも主張するのである。