今後の課題
さて、この研究を僕がどう思うかですが、「こりゃ放っておけない」というのが第一印象です。研究の重要性は「放っておけるかどうか」が一つの大切な尺度です。社会では「研究の真偽」がすぐに問われるし、それは良く理解できるのですが、真偽というのは実験系に明らかな欠陥がある場合を除いて、論文の紙面上からは誰も判断できません。嘘をつこうと思って捏造・剽窃する科学者もいれば、正直に研究をしたが何かのアーティファクト(予測できないデータの歪み)で結果的に偽のデータになってしまうということもあります。しかし、その論文を読んだ人たちが「これは重大問題だ、放っておけない!」となると、沢山の科学者が追加試験や検証実験をするものです。そして、研究の真偽はそこで検証され、真であれば新たな疑問や問題が提起されて科学の知識が前進します。
この研究に対してNature誌でコラムを書いたオクラホマ大学のジミー・バラード博士もコメントしていましたが、この研究では未解決の問題がいくつかあります。その一つは、トレハロースの代謝によりRT027株でどのように毒素が生成されるのかの詳細です。また、その毒素が患者の病態や生存率にどれだけ影響をするのかも調べる必要があります。さらに、この研究では小腸からサンプル採取をしていましたが、他にも多くのバクテリアが存在し、トレハロースの代謝に影響を与えると予想される大腸内の環境も調べる必要があります。加えて、RT027株に感染している患者からのサンプルと腸内のトレハロース濃度、日常の食生活などのデータを集めて分析する必要もあります。このように次から次へと「やらねばならない」問題提起をしているという意味で、この研究は重要だと言えるでしょう。
最後に付け足しですが、ここまで読んで「トレハロースは悪だ、製造法を開発した日本の会社は罪だ」と短絡的に思わないようにして下さい。トレハロースは食品添加物としてはリスクがありますが、医薬品、試薬、日用品など、食品添加物以外でも有用な側面があります。例えば、組織やタンパク質の保護作用を利用して臓器移植時の保護液等にも利用されることがありますし、クールビズや防臭効果をうたった繊維に利用されることもあります。製造業にとても有用な物質であったトレハロースですが、食品添加物としては予測だにしなかった感染症への影響が明るみに出てきました。日本では西洋諸国のようにCディフは流行していませんが、近年ではアジアでも報告されています。日本でのトレハロースの使用を今一度慎重に検討しなおす時がやってきそうです。
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『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』(2018年1月23日号)より一部抜粋