例えば、今回の合意にいたる直前にも、中国側は以下のような「催促」をしていたのです。
米国防総省のクック報道官は22日の記者会見で、中国・山東半島の東約130キロの黄海上空で15日に中国の航空機が米軍の電子偵察機RC135に異常接近し、同機の前方を「危険」な形で横切ったことを明らかにした。同省当局者は、中国機と米軍機の間の距離は約150メートルだったとしている。
国防総省によると、現場は黄海上空の国際空域。中国軍のJH7戦闘機2機が飛来し、RC135の前をこのうち1機が横切った。米中両政府は25日にワシントンで首脳会談を開くが、これを前に中国側が挑発行為に及んだ可能性がある。
中国機の異常接近をめぐっては昨年8月、中国沿岸の南シナ海上空で中国軍のSU27戦闘機が米軍の対潜哨戒機P8に約6メートルまで近づいた。
クック報道官は今回の接近で「衝突寸前だったと指し示す状況はない」とし、昨年8月と「似たような事案ではないと理解している」と述べた。詳細は調査中だとした」
(23日共同通信)
空の衝突防止については、昨年5月と6月にも中国側は日本に対して「催促」を繰り返しています。
ご記憶のように、1回目は昨年5月24日、2回目は昨年6月11日、いずれも東シナ海上で自衛隊の情報収集用の航空機(海上、航空両自衛隊)に戦闘機を異常接近させていますが、これも「催促」行為だったとみなすべき性格のものなのです。
それだけではありません。意図的に緊張を高めた中国は、まずは海上での衝突防止のメカニズムの協議と合意を実現し、それを受けて空における衝突防止の協議と合意へと歩みを進めたことは、以下の経過を見れば明らかでしょう。
- 2013年1月19日 海上自衛隊の哨戒ヘリに火器管制レーダーを照射(1回)
- 2013年1月30日 海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射(1回)
- 2013年2月 習近平国家主席の軍事面の盟友で対日、対米最強硬論者の劉源上将が中国国内の強硬派に対して、戦争回避について3回にわたって発言
- 2013年11月23日 東シナ海上に広大な防空識別圏を設定すると同時に、日米に対して危機管理のメカニズムの協議を提案
- 2013年11月28日 中国の新聞「環球時報」(中国共産党機関誌「人民日報」の国際版)が社説で、「防空識別圏の設定は、日本を危機管理のメカニズムに引き込むのが目的」と主張
- 2014年4月21日 中国・青島での西太平洋海軍シンポジウム(22カ国の海軍首脳らが出席)で、3項目(レーダー照射、砲身を向けた威嚇、低空飛行による威嚇、の禁止)について合意
そして、海の安全で合意した次は空の安全の番だということで、日米に対する空での「催促」が繰り返されたという訳です。
この流れを受けて、中国は尖閣諸島周辺における政府と軍の航空機と艦船の行動の自粛について、日米両国に提案してくると思われます。
これが実現すれば、尖閣諸島周辺の日本領海への侵犯を繰り返さなくても中国国内から「弱腰」の批判を浴びることもなくなり、中国が望んでやまない尖閣諸島問題の事実上の「棚上げ」を果たしたことになります。
これまで抑制的に動いてきた東シナ海ばかりでなく、南シナ海についても、中国がいかに日米と戦火を交えることを避けたいと思っているか、それが今回の首脳会談で明らかになったことは、日本にとっても重要な意味を持ちます。
中国が約束を実行するかどうかは、今後の日米、そして豪州との防衛協力の深化にかかっていることは申すまでもありませんが、中国の姿勢をここまで変化させた根底に、日本の集団的自衛権の行使容認と安保法制の整備があったこともまた、理解しておく必要があると思います。
image by: Wikipedia
著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
≪無料サンプルはこちら≫