毎回、世界の名だたる企業の経営戦略をわかりやすく解説してくれるメルマガ、『戦略経営の「よもやま話」』。今回はその中から、ウォルマート、トヨタなどの名だたる成功者たちの利益活用法や、低利益の町工場との差を、著者の浅野良一さんに教えていただきましょう。
利益の活用
松下幸之助さんが「ダム式経営」を説いています。
「資金、人材、技術等のダムをつくり、余裕のある経営をしていこう」というもので、その方法として「まず願うことですな。願わないとできませんな」と答えて、誰もが当たり前だとの感想を持ちました。その中で一人、感銘を受けた人がいました、京セラの稲盛和夫です。
多くの起業家が夢見るのは「大儲けして生活の基盤をととのえ、うまくすれば高級マンション最上階に住まいを構え、世界一周の旅行を満喫したい」ということになります。
「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」を悟った幸之助さんは、「資金のダム」をつくることを「願うことですな」と言っています。
マネジメントの創始者のドラッカーは「利益は未来費用である」と言っています。そして顧客が下す「成果の判定基準」だと言っています。また松下幸助さんですが、このことを「利益をあげられない経営は、罪悪だ」とまで言っています。
伊丹十三監督の映画『マルサの女』で面白い場面がありました。
山崎努が演じるラブホテルの経営者が、金持ちになる方法を明かす場面で「ガラスコップに水が一滴一滴溜まっていって一杯になっても、飲んではいけない。溢れて垂れた滴を舐めとり渇きをいやす」、言いえて妙です。溢れるまでの内部留保を再投資して、余分が出て配分ということです。
アメリカの最大の流通業はウォルマートです。
このウォルマートの創始者のサム・ウォルトンは1ドルの価値をもっとも重んじた人物です。ウォルトン家では、子供がみんな店舗でのアルバイトを行っていました。そのバイト代は、この事業へと投資されました。
サム・ウォルトンは、1985年から1988年まで、フォーブスで世界一の金持ちとして紹介されました。
しかし、その趣味はいたって質素で「うずら狩り」とテニスです。さらにもう一つはストアコンパリゾン(競合店比較調査)で、どこに行っても競合店を巡り「よいところ」をすぐに取り入れ(真似)ました。
ウォルマートの創業期には、同じくして多くの起業成功者が現れました。
この成功者とサム・ウォルトンが大きく違ったところがあります。
それは、サム・ウォルトンは得た利益を再投資したのに対し、同業成功者は高級車やクルーザーやさらに別荘の購入に向けたことです。
最終的にこの差が後々の大きな結果の違いをもたらしました。
ウォルマートはEDLP(Every Day, Low Price)を掲げて、情報管理、物流管理、徹底したコスト削減を武器にし低価格を実現させて世界最大の売上げを誇る企業となりました。
コストパフォーマンスでは顧客により良い満足を与えていますが、しかし一方では多くの低賃金の非正規雇用従業員をも生み出しています。
利益の役割は、顧客満足のための継続した効用を再生産することです。
それと同じくして、内部にいる関係者従業員の物心両面の幸福に貢献し、さらに社会に貢献することです。
ただし、利益のみに焦点を絞った場合、そのバランス調整は微妙で、このバランス感覚は経営者の価値観とセンスの領域に委ねられています。