2016年3月に東京~北海道間の直通が開通する北海道新幹線。約4時間で行き来でき、観光客増加が期待されています。しかし、8月末の報道でJR北海道が一日の運行本数をたったの「10本」にする予定だとリークされたようです。あまりにも少ない本数ですが、その意図とは…? アメリカの教員で無類の鉄道ファンでもある冷泉さんのメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』から、抜粋してご紹介いたします。
北海道新幹線、東京直通10往復という衝撃
2016年3月には北海道新幹線の新青森~新函館北斗間が開通することが決定しています。工事は既に各駅の内装以外は完工しており、現在は鉄道・運輸機構による試運転も完了して、JR北海道による乗務員の習熟運転が始まっているところです。
そんな中、8月末に流れた報道では、「東京から新函館北斗の直通電車『はやぶさ』は一日10往復だけ、これに加えて新青森発、盛岡発、仙台発の区間運転列車『はやて』がそれぞれ1往復、全体で北海道新幹線の運行は一日13往復のみ」という運行計画がリークされています。
参考:北海道新幹線1日13往復運行へ 東京まで「4時間切り」鍵に
正式な発表では全くないのですが、地元のシリアスな受け止め方を見ていると、どうやらかなり確度は高い情報のようです。「ショックを和らげるためにJRとしては意図的にリークしたのでは?」などという勘ぐりすらしたくなるような状況です。
それにしても、東京から新函館北斗の「一日10往復」というのは本数としては滅茶苦茶少ないわけです。比較対象をしてみると……
(1)現在の「東京=新青森」を直通運転する『はやぶさ』は一日17往復。
(2)北陸新幹線の「東京=金沢間」の直通列車は『かがやき』『はくたか』併せて一日24往復。(臨時増発除く)
(3)「新大阪=鹿児島中央」の『みずほ』『さくら』が23往復。
ここまでは「大幹線」ですから比較にならないかもしれません。ですが、
(4)ミニ新幹線の「東京=秋田」間の『こまち』が一日15往復。
(5)同じくミニ新幹線の「東京=山形・新庄」間の『つばさ』が16.5往復。
となると「10本」という数字はかなり見劣りします。更に歴史的な青函連絡を振り返ってみると、
(6)連絡船時代には70年代の最盛期に一日30往復。
(7)青函トンネル初期には快速『海峡』や寝台特急など一日16往復。
(8)昨年までの状況でも寝台特急を入れると一日14往復以上。
という比較をすると、「10本」あるいは「13本」という数字の深刻さがわかるように思います。どうしてなのでしょうか? 理由としては色々なものが考えられます。
(ア)青函トンネル区間を共用する貨物列車のダイヤをできるだけ乱さないためという問題があると思います。例えば「貨物と新幹線のすれ違い」については、事故防止のためにトンネル区間を140キロに減速することになっているわけですが、それでも在来線の電車より断面積の大きな新幹線車両の場合は、風圧などの問題があり、できるだけ「すれ違いを避ける」ことが必要になっているのかもしれません。
(イ)もしくは、貨物のダイヤを大きく変更できないために、既存の在来線特急電車の『白鳥・スーパー白鳥』の「スジ」に新幹線を乗せることとなり、結果的に「同じような数」となったという要因も考えられます。
(ウ)乗務員の習熟訓練がトラブっているという報道もあります。そんな中、JR北海道としては新幹線のトラブルは絶対に避けたいわけであり、そのためには開業当初は無理をしないという方針もあるのでしょう。
(エ)ニーズが読めない中で、そんなに本数を増やせないという要素もあるようです。新幹線の開業効果で、東京から2時間半の金沢にはお客さんが殺到しても、4時間の「新函館北斗」にはそんなブームは起きない、そんな「敗北主義」があるのでしょう。運賃がそんなに低く抑えられない(往復で3万5千円程度?)という問題もあります。
いずれにしても、このままですと「直通10本」という衝撃的な少ない運行本数での立ち上げになりそうです。「小さく産んで大きく育てる」ことができればいいのですが、とにかく注目していきたいと思います。
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