9月15日朝、北朝鮮の西岸から発射されたミサイルは襟裳岬の東およそ2,200kmの太平洋上に着水。一時的とは言え交通機関に乱れが生じ、菅官房長官が会見を開くなど騒然となりました。しかし、無料メルマガ『マスコミでは言えないこと』の著者でITジャーナリストの宮脇睦(みやわき・あつし)さんは、「もっとも警戒すべきはサイバー攻撃」と断言。実際に日本がサイバー攻撃を受けた場合どのような状況に陥るのか、専門家の視点からわかりやすく解説しています。
もっとも現実的な攻撃がサイバー攻撃
北朝鮮のリスクをいたずらに煽るつもりはありませんが、適切に怖れておくべきでしょう。それは私の本職であるITに絡む「サイバー攻撃」です。最近になって少しずつ、話がでてきていますが、もっとも現実的に警戒すべき北朝鮮による攻撃です。
まず、先週号でも触れた「電磁パルス攻撃」について補足しておきます。北朝鮮による水爆実験の成功とともに、北朝鮮の機関紙「労働新聞」が報じて注目を集める「電磁パルス攻撃」とは、高高度で原水爆を爆破し、ざっくりといえば地上の電気回線を過電流にして破壊するものです。
理屈的には落雷による過電流と同じような状態ですが、雷サージ対応の電源タップを使用していても防ぐことができないのは、これも語弊を怖れずにいえば、電子レンジが物理的接触なく、食べ物を温めるような仕組み。物理的な接点は必要がないという意味です。
核爆発以外にも電磁パルス攻撃は可能で、旧日本軍でも開発していたと、「ロケット・ササキ」こと、佐々木正元シャープ副社長の評伝にあります。そして順序は逆になりますが、この原理を家庭用に用いたのが電子レンジです。
電気だからこそ防ぐ方法もあります。電子レンジでの電波が外のモノを温めないように、電磁パルスを防ぐシールドなどがそれで、米軍は主要インフラにこの対策をすでにしていると言われています。
日本では小野寺五典防衛大臣が、テレビの取材で明確な回答を避けつつも、適切な手段を講じていると述べましたが、防衛予算などからみる限り、後手に回っているというのが専門家の見立です。
また、公共インフラに至っては「未対策」といってよいでしょう。
福島第一原発事故が起きてから「なぜ防潮堤を作っておかなかった」と責める声がありますが、その時点で想定されない事態への対処に予算を割くことは、日本社会では実現不可能です。
口にしたことは実現するという「言霊信仰」があり、不吉なことについては議論そのものを避けようとする習性があります。
また、電磁パルス攻撃でいえば、想定されるのは後述するように北朝鮮ぐらいで、その可能性は軍事やセキュリティ関係者の間では繰り返し指摘されていましたが、それを政府や自治体が議論しようものなら「北朝鮮の恐怖をいたずらに煽り、在日同胞を傷つける」と攻撃の電話とFAXとメールが殺到し、彼らに過剰にシンパシーを感じる著名人や政治家が声を大にして非難したことでしょう。
何よりいまだ景気回復の途上で、その前は永らく続いたデフレ不況。喫緊の予算確保に四苦八苦で、電磁パルス対策などに目を向けられる余裕がなかったという台所事情もあります。
危機が眼前に示されてから、過去に遡って検証することは必要ですが、時代性や国民性を置き去りに批判するのは卑怯のそれであり、無責任な思考停止と考えます。
電磁パルスは爆発から一定期間で消失します。これは「爆発音」をイメージすればよいでしょう。爆発エネルギーにより発生し、しばらくすれば納まります。
だから、その時、電源を切っておけば回路の破壊を免れることができる、と科学者の武田邦彦氏は指摘しています。
電気が流れている回路は電気(電波)を誘いやすく、そうでなければそうではないということで、雷が聞こえたらパソコンの電源を切るというのもこの理屈です。
つまりホリエモン氏が「くそ」といった「Jアラート」が鳴ったとき、電子機器の電源を抜いておくことで、故障を避ける確率が高まるということです。
もちろん100%ではありません。なぜなら、どんな爆弾によるものか、どこで爆発させるかが、まったく被害が異なるからです。
想定以上の高圧の場合、電源を切っていても電子機器が誤作動し、破壊される可能性もあります。電子レンジでも「温めムラ」ができるように、あくまで想定からの確率論の話です。
さらにヒューズが飛ぶようにぷつんと、機能停止するタイプの故障ならともかく、オーバーヒートのように「熱」を生じる故障なら、「火事」の懸念も発生します。
現代的生活をしていて、Jアラートがなって数分の間にすべての電子機器を、コンセントから抜くのは現実的ではありませんし、スマホやテレビ、ラジオにパソコンからの情報入手が、生死を分けることもあり、これらの電源を落とすリスクもあります。
そこでJアラートが警告を発した場合、可能な範囲で不要不急の電源は抜き、そしてスマホやテレビが止まるなど、電磁パルス攻撃が疑われる状況になったなら、まず、電化製品からの「出火」がないかを確認します。これにより二次被害、三次被害を回避します。