大手住宅メーカー・積水ハウスが、東京・五反田にある元旅館「海喜館」の土地取引を巡り、詐欺師グループに63億円もの大金を騙し取られた巨額詐欺事件。週刊誌などでも報道されましたが、日本を代表する住宅メーカーで取引経験も豊富な同社が、なぜあっさりと詐欺グループの策略に乗せられてしまったのでしょうか。メルマガ『伝説の探偵』の著者でこの件に関する調査を進めてきた現役の探偵である阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、事件の背景から黒幕の正体まで、大手マスコミでは報じられない真相に迫っています。
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海喜館の怪
あの積水ハウスが、土地の取引に関する詐欺で、詐欺師グループに「63億円」を騙し取られた。事件として報道されている経緯をまとめると、東京にある有数の繁華街である五反田にある土地、およそ600坪の購入をするために、積水ハウスは購入代金を70億円と定めて、先行して9割の63億円を相手に支払ったが、この相手というのが赤の他人であり、土地の所有者とは全くの別人と取引をしてしまった。
積水ハウスはこの件を平成29年8月2日に「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」というレポートで公開し、捜査機関へ被害の申し入れと全面的な協力をすると発表した。
事件の背景
さて、事件の背景には、大手不動産業者が2020年のオリンピックに向けて、都心の一等地を買い漁っているという背景がある。オリンピック前にマンションの建設を進め、販売したり賃貸として提供することで、利益を見込んでいるとうことなのだろう。
こうした動きから、地面師グループ(※ 地面師とは不動産の取引を詐欺のネタとしている詐欺師のこと)は、所有者のなりすましなどで、虚偽の取引を行い不動産代金を得ようと画策しているのである。この件では、まずは所有者になりすました人物がいるということだ。ただ、この人物はいずれ逮捕されるであろう要員に過ぎない。
また、所有者の高齢化もある。都心一等地など広大な土地が無造作に放置されているものの所有者の多くは高齢者であり、相続などでその土地をだいぶ前に取得しているのだ。同様に坪単価の高い土地は、取引も開発も活発であり、周辺住民も高齢化しており、長く近所に住む者も年を追うごとにす減少する傾向にあるから、所有者を知る人物が少なくなるという傾向もある。
一方で高い土地は相続税や固定資産税も高騰しているから、相続する親族は、これを相続したという手続きが遅れていることもある。
このような土地を地面師は調べ上げており、独居の高齢者が管理しているような価値ある土地を見つければ、それをネタにできないか日々暗躍しているのである。
この条件に完全に一致しているのが、東京・五反田にある元旅館「海喜館」の土地だったのだ。