人口減少という抗い難いトレンド
なぜ日本は中等国に戻って行くのか。答えはシンプルで、人口減少のせいである。
日本は縮みゆく大国だ。……日本の出生率は世界最低レベルで、この傾向が続けば65年までの人口減少率は未曾有の31%。人口は現在の約1億2,700万人から8,800万人に落ち込み、65歳以上が4割を占める超高齢化社会となる。生産年齢人口は約5,000万人と推定されるが、これは100年前の水準だ。対照的に中国とインドの人口はどちらも10億を優に超え、アメリカも4億人程度まで増える。
(カール)
同じ『ニューズウィーク』誌の別の論文「先進国陥落は間近/戦後幻想の終焉」の筆者デービッド・アトキンソンによると、戦後の日本の経済的成功の最大の要因は、日本人がそう思いたがっているように技術力とか勤勉さではなく、人口の多さにほかならない。日本のGDPは英国のそれの1.8倍だが、それは日本の人口が英国の1.9倍であることを反映しているだけで、別に日本人が英国人に比べて特に優れているということの証拠ではない。
人口が減少すれば必然的に需要は減退する。それを「デフレ対策」だとか「金融緩和」だとか「成長戦略」だとか言って乗り越えようとしても無理だと喝破したのは、2010年6月に出た藻谷浩介『デフレの正体』(角川書店)で、そのせっかくの忠告を無視して安倍政権はアベノミクスに突入してどうにもならないところまで行き詰まった。結果的に、日本は「92年から25年間ほとんど経済成長していない。ピーク時に日本のGDPは米国の70%だったのが、今では4分の1となった」(アトキンソン)。付け加えれば、日本は2010年に中国に追い抜かれて、今では中国の44%の経済規模である。中国が大国で日本が中等国だというのは、将来の話ではなく、すでに現実なのだということに気づかなければならない。
ここは大事なところである。「92年から25年間ほとんど経済成長していない」というのが日本経済についての基本認識でなければならず、ということは、成長を求めること自体が無理で成熟をこそ目指さなければならない。そうすると、獣医学部新設とかカジノ開設とかの「成長」戦略なるものが全く見当違いであるということがすぐに分かるのである。
対外政策もこれに連動していて、人口学的に中国の圧倒的有利が蘇って日本は中等国として生きるしかなくなっているというのに、米国という20世紀の旧超大国にしがみついて、米国を盟主として日本がそのアジア支店長のようになって中国の拡張と対決しようという「中国包囲網」の外交・安保政策を追求するというのは、歴史の流れに対して抵抗勢力化していることであって、これでは出口を失う。その根底にあるのは、一言でいって脱亜論で、日本はアジアで唯一、米国に認められた先進国であり、最も信頼された同盟国であって、米国と日本が組めば中国ごときの盲動など力で抑え込むことができるという幻覚である。
つまり、安倍政権の内外、政経のあらゆる方面における失敗は、人口減少社会への突入という現実を正面から見つめようとしないところから発生していると言えるのである。