米国育ちで元ANA国際線CA、さらに元ニュースステーションお天気キャスターからの東大大学院進学と、異例のキャリアを持つ健康社会学者の河合薫さんのメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』。今回は、メディアがあまり取り上げなくなったものの、依然として深刻な社会問題となっている「介護施設での虐待」の現状について、河合さんが独自の鋭い視点で分析しています。
虐待を許しますか?カネを払いますか?
先週、介護職員でつくる労働組合の「日本介護クラフトユニオン(NCCU)」は、介護事業者40社と「職場環境改善に取り組む労使協定を結んだ」と発表しました。
「深刻な人手不足で、業務の負担やストレスが増加している。人手不足を解消しないと虐待は減らせない」(by NCCU)ーーとのこと。
“熱しやすく冷めやすい”メディア報道は、ここのところ滅多に「介護施設での虐待問題」をとりあげません。
しかしながら、報道されない=虐待がなくなった というわけじゃない。
厚生労働省の調査でも、介護施設職員による高齢者への虐待は年々増加傾向にある状況は続いているし、人手不足もまったく改善されていないのです。
実際、NCCUが組合員を対象に昨年「高齢者虐待が起こる理由」を尋ねるアンケートを実施したところ、
- 「業務の負担が多い」が最多で54.3%
- 「仕事上でのストレス」が48.9%
- 「人員不足」が42.8%
となっていたのです。
介護現場での虐待が公になると、まるで「鬼畜」のようなバッシングがおきます。
もちろんいかなる状況であれ「虐待」は許されるものではない。
でも、時間的なプレッシャー、多忙な業務に加え、“人”を相手にする現場では不測の事態は日常茶飯事です。そんな厳しい状況におかれれば、つい大声で怒鳴ってしまったり、厳しい言い方をしてしまったり、乱暴に接してしまったり……、そういうことってあると思うのです。
「いつか自分も…」ーーー。
こんな不安を抱えながら“私たちの親”を看てくれている現場の人たちは決して少なくありません。
2年前の2015年4月に政府が行った介護報酬の引き下げ(2.27%マイナス)は、ますます現場を疲弊させました。