「定年を迎えるもまだまだ自分は働ける」と、ハローワークで見つけた職場に入ってみたものの、その社の「教育係」がどうにもならない腐れ人間だったとしたら…。そんなエピソードを紹介しているのが、無料メルマガ『精肉店の販促』の著者で販促プランナーの前沢しんじさん。そこには、社員定着率の低い会社に共通する根深い問題が存在していました。
辞めるじゃなく、辞めさせているんだ
彼は定年退職後、まだまだ働きたいとハローワークで65才以上でも可という仕事を探して面接に行き、熱心さと元気さを買われて入社が決まった。早朝4時から9時までの仕事だった。
これまでデスクワークしかしてこなかったが、体を動かす仕事をしたいとずっと願ってきて、その夢の入り口に立てたうれしさで、心も軽く翌日早朝3時40分に出社した。すでに仕事は始まっていて、社長からスタッフ数人に紹介された。
さっそく若いお兄ちゃんから仕事の準備などについて説明を受けた。素人だし、初日だから、勝手がまったく分からないまま言われたことをしていると、彼が今後担当する工程の教育係である女性が出社してきた。社長が「今日から入ってくださった○○さんです」と、女性に紹介した。彼は一目見て「意地悪そう」と感じた。年は40代後半に見えた。
そこからの指導は、やはり見立て通りの「意地悪」であった。しかし彼は体を動かせる喜びを最優先しようと女の言うことすべてに「はい」「はい」「はい」と簡潔に返事をした。「かんたんな仕事です」と言われていたが、かんたんな仕事などないと経験からわかっているので、たいへんで複雑でおぼえることがいっぱいの仕事が当然と思っていた。
「叱る」は思いやりが根底にあり。「怒る」は感情が根底にあるという。指導はいくら叱られてもいい。しかし女性の指導は明らかに「意地悪く」が9割以上だった。この紙面では書ききれないほどの「意地悪」が充満していた。ほんとうに書ききれないほどの。
「おーなるほど。これがはらすめんとというやつか」とこれまで経営コンサルタントとして幾多の局面にいどんできた百戦錬磨の彼には、実戦を楽しんでやろうという気持もあった。
他のスタッフも「ああまたやってる…」的に遠回りに見ているだけだった。社長も近くにいたが「これで辛抱できるかな」と見ているようだった。優しそうな60才くらいのスタッフが耳打ちしてくれた。「今は辛抱してくださいね。慣れますよ」。
2日目に指導してくれた、もう一人の指導係のYさんという40才くらいの男性も親切だった。指導は同然厳しいが、そこには「この人を育ててやろう」という思いが明らかに見てとれた。しかし彼の指導は女性が休みの時の臨時だった。
3日目。5分程度の休憩のとき、女性が言った。「どれくらい持つのやら。入っても辞める人が多くて」。彼はそれまでのやり方が腹に据えかねていたので迷わずこう言った。「だろうね」(その育て方じゃ当たり前だ、と言いたかったがそれはひっこめた)。
言葉を重ねた。「続ける辞めるはオレが決めることや」「仕事を覚えるメモはしない。4日間の試しが終わってからや。初めにアウトラインを見やんと意味ないやろ」。女性の顔色が変わった。そんな口答えをされたことがなかったのだろう。3日目のその後の指導はそれまでとはちがって穏やかだった。が……。