6月17日未明、静岡県伊豆半島沖で起きたコンテナ船と米海軍イージス艦フィッツジェラルドの衝突事故は、フィッツジェラルドの乗組員7人が亡くなるという惨事となってしまいました。高度なレーダーシステムを誇るイージス艦が、なぜこのような事故の「当事者」となってしまったのでしょうか。アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、イージス艦が抱える3つの問題点を指摘するとともに、制海権防衛戦略を見直す必要性についても言及しています。
イージス艦は本当に無敵なのか?
静岡県の石廊崎沖でフィリピン船籍(運航は日本企業)のコンテナ船と、米海軍の駆逐艦USSフィッツジェラルドが衝突した事件は、アメリカでも大きく報道されています。別に民間船舶を責めるでもなく、淡々と犠牲者を追悼する内容なので特に懸念はないのですが、それはともかく、これは単なる事故として処理して良い問題とは思えません。
3つ問題点を指摘したいと思います。
1つはイージスの高度なレーダー迎撃システムの欠陥です。今回のインシデントは純粋な事故と思いますが、少なくとも民間の艦船を偽装して巨大な質量を持った船舶をつかって「夜間に静かな体当たり」をされた場合には、全く無力であることを証明してしまったわけです。
勿論、今後は夜間の哨戒などを真面目にやるでしょうし、その点では今回の事故が「弛緩した軍紀」を引き締める契機になるのかもしれません。ですが、イージス・システムの基本的な設計というのは、敵の攻撃をレーダーで捕捉して無力化するという思想でできているわけです。
ですが、仮に自艦への脅威を脅威と認識できなければ、つまり味方であったり民間であったりすると認識した場合は「無力化=攻撃」は出来ません。攻撃できない中では、「何もできない」わけです。つまり飛来物にしても、海上を、あるいは海中を接近してくる物体にしても、明らかに「敵」と認定できない場合は、手も足も出ないシステムであるわけです。
2点目はステルス性です。戦闘時にはレーダーだけでなく、視認性を削減するという意味も含めてのステルス性は重要かもしれません。ですが、平時に民間船舶と一緒に航行している場合にはステルス性というのは、危険極まるわけです。
灰色の塗装、識別しにくい形状など、戦闘にはメリットとなる特徴があるわけですが、それは同時に平時においては視認性の低い危険な船体であることを意味します。ですから、夜間や濃霧等のコンディションにおいては強い灯火を示すなど特に視認性を高める工夫が必要です。今回の事故では、果たしてどうだったのか、検証が必要と思います。