一定数以上の規模をもつ事業主は、全体の2.0%以上障害者を雇用しなければならないという「障害者雇用率制度」。しかし「障害者は仕事ができない」といういわれのない偏見から、雇うだけで仕事を与えない会社もあるといいます。 今回の無料メルマガ『Japan on the Globe-国際派日本人養成講座』では著者の伊勢雅臣さんが「日本理化学工業」の取り組みを紹介しつつ、企業の社会的役割を問いかけています。
知的障害者に「働く幸せ」を提供する会社
約80人の従業員の中で、知的障害者が社員の7割を占める会社がある。粉の出ないダストレス・チョークで3割のシェアを持つ「日本理化学工業」である。
この会社については、「顧客より『社員の幸せ』を第一に考える会社が繁栄するのはなぜか」で紹介した。日本理化学工業が知的障害者を採用し始めたのは、もう50年以上も前の昭和34(1959)年のことだ。
当時、社長だった大山泰弘さんが、近くの養護学校から、卒業予定の2名に、採用はできなくとも、せめて働く体験だけでもさせてくれないか、と頼み込まれて、引き受けたのが始まりだった。
二人の少女が1週間だけ作業体験をしたのだが、その仕事に打ち込む真剣さ、幸せそうな顔に周囲の人々は心を打たれた。約束の1週間が終わる前日、十数人の社員全員が大山さんを取り囲んで、「みんなでカバーしますから、あの子たちを正規の社員として採用してください」と訴えた。
それから知的障害者を少しずつ採用するようになったのだが、大山さんに分からなかったのは、会社で働くより施設でのんびりしている方が楽なのに、なぜ彼らはこんなに一生懸命働きたがるのだろうか、ということだった。
これに答えてくれたのが、ある禅寺のお坊さんだった。曰く、幸福とは「人の役に立ち、人に必要とされること」。この幸せとは、施設では決して得られず、働くことによってのみ得られるものだと。大山さんは目から鱗が落ちる思いがした。
それなら、そういう場を提供することこそ、会社にできることなのではないか。企業の存在価値であり社会的使命なのではないか。
これ以来、50年以上、日本理化学工業は積極的に障害者を雇用し続けてきた。