5月末には首相在任期間が小泉純一郎元首相を抜き戦後歴代3位となるなど、まさに「一強」の様相を呈する安倍政権。ジャーナリストの高野孟さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で「週刊ポスト」に掲載された小沢一郎元民主党党首のインタビューや過去のご自身の執筆記事を引きながら、「安倍一強」を招いた原因について分析しています。
民進党をいったいどうしたらいいのか(その1)──小沢代表辞任まで遡った総括が必要
先日、某シンクタンクから「民進党はじめ野党のこの体たらくをどうしたらいいか」という趣旨のヒアリングを受けた。その時に語った要点を掲載するのは来週号に回して、その前に今週発売の『週刊ポスト』6月23日号の巻頭「小沢一郎よ、『安倍一強』をあなたはどう思っているのか?/ロングインタビュー120分」が面白い。
小沢の敗北が招いた「安倍一強」?
どんなに批判を浴びても「それは印象操作だ」と嘯(うそぶ)いて蹴散らして進むのが「安倍一強」政治だが、ポスト誌のインタビュー記事の前書きで聞き手の武冨薫はこう述べている。
そうした異形の政治手法が出現したきっかけは09年の「国策捜査」ではなかったか。検察とメディアの印象操作で国民は野党第一党党首を犯罪者と思い込み、小沢一郎氏は政治の中心から排除された。……「小沢の敗北」がなければ、現在の「安倍一強」も(印象操作という)「魔法の呪文」も誕生しなかったかもしれない。
同感である。民主党政権の失敗も、その裏返しとしての現在の安倍一強政治の罷り通りも、政権交代を目前にした09年5月の小沢氏の同党代表辞任のところまで遡らなければ総括できないし、従って今のどん底状態からどうやって這い上がって再び政権を奪取するかの展望を描くこともできないと思う。
それについて小沢氏自身はどう答えているか。
──「安倍一強」を作り出したのは「小沢の敗北」ではなかったか。
「振り返ると僕の失敗は、あの時に自ら身を引いてしまったことだっかもしれない」
──政権に逆らう者は大メディアに批判されて社会的に抹殺される。この異様な「空気」をどう見るか。
「その根底には日本人と日本社会の形成の過程があると思う。日本というのは『和』の社会で、……異見があってもなるべく言わないで、みんな丸く収めていこうとする。……その中で、お上、特に官僚を中心とした権力が非常に強くなってきた」
「09年に政権交代が現実的になった時も、『小沢が総理になったら、これまで築き上げてきた官僚支配が崩れる』と、旧体制を支配してきた人たちが非常に心配したんでしょう。それが多分、『小沢を潰せ』となって、権力による国策捜査につながったんだと思う」
「そのことが『政権交代の先頭に立っている者が強制捜査を受ける。お上というのはそれができる。何も法律に違反する行為がなくても強制捜査をやれるんだ』と、国民に再認識させたことは間違いない。今でも全然その傾向は変わっていない。それどころか強くなっていると思う。だから国民には『お上に逆らわないほうがいい』という意識がまた頭をもたげてきたのではないか」
──小沢でさえも潰されてしまうという状況を目の当たりにして、多くの者が権力批判を怖れ、諦める風潮が生み出されたといえるのではないか。
「今思えばだけど、僕の失敗は、あの時に民主党の代表を辞めたことだったかもしれない。あの時は麻生政権が行き詰まっていて、国民の間に政権を民主党に任せようという機運が広がっていた。そんな政権交代のチャンスを目前にして、僕に対する捜査のせいでマイナスになってはいけないと思って代表を降りた。けれども、その判断は正しかったのか。……辞めないという手はあったんだと思う」
──辞任したのは、「小沢は辞めるべきだ」という国民の「空気」を感じたからではないのか。
「それは違う。捜査されることによって政権が取れなくなったら、僕は悔やんでも悔やみきれない。だから少しでも選挙での障害を減らそうとした。政治的、選挙戦略的な決断だ」