ユニーク商品を連発~老舗企業の秘策
タマノイ酢の創業は1907年。大阪の中堅お酢メーカーとして伝統的なお酢を作り続けてきた。その一方で、これまでなかった革新的な商品も世に送り出している。
例えば1963年発売の「すしのこ」は、世界で初めてお酢を粉末にした即席調味料。ご飯にかけて混ぜるだけで簡単に酢飯が作れる。発売当時、業界を驚かせた画期的な商品だ。手軽にお寿司ができるので、若い人にも人気がある。
1969年に売り出した「パーポー」は、業界に先駆けて発売した簡単に美味しくなる中華調味料。関東ではほとんど知られていないが、関西では定番だと言う。炒めた具材に混ぜるだけで八宝菜の出来上がり。「ハッ・ポー・サイ」の素だから「パーポー」なのだ。
そしてタマノイ酢最大のヒット商品が、1996年発売の、「はちみつ黒酢ダイエット」。お酢を飲む習慣がなかった時代に打ち出した日本初のお酢ドリンクだ。発売から21年で累計10億本を売る大ヒットを記録した。
こうした画期的な商品を世に出す秘密が、大阪府堺市の本社にあるという。オフィスを覗いてみると、デスクにパソコンがない。パソコンはフロアの一角に10台だけ。それを50人の社員で共有している。他の社員あてのメールやファイルも見ることができる。
これには意外なメリットがあった。個人のパソコンをなくしてから社員同士が話し合って仕事をすることが多くなったと言う。結果、チームワークが強くなったのだ。
「パソコンがないからこそ、人間関係を濃くしないとやっていけない。話し合い、心を開き合うことで、学ぶことはたくさんあると思うんです」と言うのは、この一見不便な仕組みを考えたタマノイ酢社長の播野勤(63歳)だ。
播野は他にも様々な独自の仕掛けを実践している。この日、行われたのは、入社1年目の新人が会社の問題点などを発表する会。それを聞くのは播野を始めとする会社の幹部たちだ。大先輩たちに新人たちが感じたままをズバズバ指摘していく。若手でも意見を言える体質を作ろうと、播野はこんな会を開いているのだ。
「ああだこうだと答えを出すのではなくて、思い切り表現させる。本人たちに力はありますから、『やりたい』という気持ちを引っ張り出すことです」(播野)