にわかに緊張が高まり、一部では「第2次朝鮮戦争勃発か」とまで騒がれた北朝鮮を巡る危機。しかしジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、米朝の軍事衝突、そして大戦争に発展する危機は回避されたとしています。高野さんがその鍵となったと見る米中首脳会談及びその後始められたという習近平―金正恩の水面下での協議では、一体どのような話し合いが持たれたのでしょうか。
米中協調で進む北朝鮮危機の外交的・平和的解決の模索──宙に浮く安倍政権の「戦争ごっこ」のはしゃぎぶり
米国と北朝鮮の双方ともが不確実性・不可測性の極度に高いトップを抱えているので、断言することは出来ないが、米朝が軍事衝突し韓国や日本をも巻き込んだ大戦争に発展する危険は、すでに基本的に回避されたと見て差し支えあるまい。
転換点となったのは4月6~7両日の計5時間に及んだ米中首脳会談で、これを通じてトランプ大統領と習近平主席は、北の核・ミサイル開発問題に軍事的な解決はありえないこと、中国の北に対する影響力には限界があるけれどもまずは中国が北に核放棄を約束させるべく全力を尽くすことで意見の一致を見た。
またそれと連動する形で、トランプは中国を為替操作国と認定するとの選挙公約をキャンセルし、協力してドル安=人民元高へと誘導していく「パートナー」として認め合った(本号FLASH 参照)。
両々相俟って、同首脳会談を「G2時代」の幕開けと評価する見方も中国側では浮上している。安倍晋三首相には、この東アジアの潮目の変化は見えていないかのようである。
米中首脳会談でのやり取り
トランプ自身は、米中会談について12日のウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、要旨次のように述べた。
本当によい会談だった。……我々は非常に気が合った。
彼は中国と朝鮮の歴史を語った。北朝鮮ではない、朝鮮だ。何千年の歴史があり、たくさんの戦争があって、そして朝鮮は事実上、中国の一部だったこともある。
10分間ほど話を聞いて、私は(北朝鮮への対応は)そう簡単なことではないと気づいた。中国が北朝鮮に対して多大な影響力を保持していると、かなり強く確信した。しかしそれは一般的に思われている状況とは違う。
中国との間には長年にわたり、何千億ドルという巨大な貿易赤字がある。そこで、私は(習に)言った。「すばらしい取引をしたいかね。それなら(中国が)北朝鮮の問題を解決することだ。それは貿易赤字を帳消しにするだけの価値がある」と。
あのような国が核能力、核兵器を保有するのを認めてはいけない。大量破壊につながる。彼(金正恩)は今はまだ(ICBMという)運搬手段を持たないが、いずれ持つだろう。それで、我々(トランプと習)は北朝鮮について非常に開けっぴろげの話をした。我々は非常によい関係を築いた。大いに気が合った。お互いに好感を持ったし、私は彼がとても好きになった……。
同紙日本版の抄訳をベースにし、一部は英語版から翻訳して補ったがそれでも意味不明的な部分が残るのは、「英語が下手」と言われているトランプのことだから致し方ない。にもかかわらず、ハッキリしているのは、この会談を境にトランプの考えが切り変わったことである。
それ以前にはトランプは、「中国が解決しなければ、米国がやるぞ」(例えば4月3日付英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビュー)と、北朝鮮への先制的な軍事攻撃に踏み切る方向に傾いていた。
- 4/3:シリアで化学兵器使用疑惑
- 4/4:トランプがシリアへの爆撃決断
- 4/5:北朝鮮がミサイル発射実験
- 4/6:習近平との夕食中にシリア爆撃を命令
と、ここまではシリアと北朝鮮とがダブリながら事態が進行し、従って習の眼前でのシリア爆撃命令は、「中国がしっかりやらないなら、北にも同様の行動をとるぞ」という脅しに近い強烈なメッセージとなったと想像される。そこで習は──あくまで推測だが──2つの問題に直面した。