両氏に必要なのは「伝説」
トランプ氏が必要としているものは、エスタブリッシュメントへと至る道。すなわち、自らの政治基盤を固めるに必要な企業群・経済界をバックに備え、中銀の信認を取り付け、外国政府および国外勢力との特別な関係を独自に構築することである。
一方の習氏は、東アジア地域の「アジア回帰」を望んでいるだろうか。識者の間では、中国は米中間の緩衝材である北朝鮮の消滅を望まないとする意見が多勢であるが、それは北朝鮮より南(日韓台)が反中親米であり続けることを前提にしているのであって、そもそも、そのような環境を中国が未来永劫望むはずもない。地域のアジア回帰、すなわち、親米を否定しないまでも、地域親中化は同国の発展に欠かせない。
ただ、両氏が目指すこれらのものは、その達成へは、どちらも非常に長い道のりである。そこで、期間短縮にはレジェンドとなることが一番手っ取り早い。つまり、後世に残る功績をもって「伝説の人」となり、市民から絶大な信認を得ることができれば自ずと全てがついてくる。
仮に、朝鮮半島の平和的な統一が実現すれば、それは同時に、米国に対する北朝鮮の脅威が消滅するに等しい。そして、それが米中の功績であったなら、まさに両首脳は偉業を遂げた人物として、国際社会から歴史的な評価を受ける。そして、この伝説の人物は大きな未来を切り開くことになる。
これまで、THAAD配備に反対表明していた中国であるが、仮に米中現政権の戦略的な思惑が働いていたとすれば、別のシナリオも見えてくる。
THAADの配備を強硬に進めれば、中国は不機嫌さ募らせ、韓国への締め付けを強化してくるとの憶測を生む。しかし、もはや中国なしでは成立しないとする韓国経済の切迫した状態を打破するには、親米親日大統領の下では困難であり、親中親北政治を容認する方へと世論が向かう(ここまでは、既に起こっている)。
それが、韓国の親中化を促し、その上で半島の平和的統一を目指す。統一が実現すれば、トランプ氏は朝鮮半島の無害化を達成し、習氏は、半島と大陸の結び付きが高め、日台を親中誘導することで、本格的な地域のアジア回帰を目指すことができる。
こう考えると、その主張を一転させたトランプ氏の「一つの中国」支持表明や、米国は拒み続けてきた6ヵ国協議の再開で中国の誘いに応じるなど、朝鮮半島を巡っては、ある時点で連携が始まっていたと見ることができる。これは当然、電話会談では困難であったし、また会談後に何も出さなかった「顔合せサミット」も不思議でなくなる。
朝鮮半島統一の実現性を疑う声は絶えないが、あり得ないと考えているうちの統一も、決して夢物語ではない。それは、過去の東西ヨーロッパやドイツの分断、その後のベルリンの壁やソビエト連邦の崩壊を思い起こせば、ある時点を境に、誰も予測できないスピードでそれに至った史実から確認できる。