元台湾総統の李登輝氏が高齢にもかかわらず、たびたび日本を訪れ青年たちを叱咤激励していたことをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『Japan on the Globe-国際派日本人養成講座』では、李登輝元総統を突き動かす原点とも言える新渡戸稲造の『武士道』を取り上げ、先人が700年という歳月をかけて育て上げてきた「日本人の基本精神」について考察しています。
武士道~先人からの贈り物
「いまだかって、私は『尊敬できる日本』という言葉を聴いたことがありません」とは、2009年9月5日に元台湾総統の李登輝氏が、東京青年会議所の約2,000人の聴衆に向かって語った言葉である。
総統退任後、残された人生を台湾人、そして日本人を励ますために使うと話していた李登輝氏だが、87歳の高齢にして、心臓に持病を持つ身でありながら、まさに自分の命の限りを尽くして、日本の青年たちに語りかけている。氏を駆り立てているのは何なのか?
ブログ『台湾は日本の生命線!』は、こう語っている。
…日本に対し、増大する中国の軍事的脅威から東アジアを防衛するため、日台が「運命共同体」「生命共同体」であることを繰り返し訴え続けている。「台湾は日本の生命線だ」「台湾が中国に取られれば日本は終わりだ」と。
李登輝氏が最も日本人に伝えたいのは、まさにこれであるはずだ。「かつてのような智恵と勇気に溢れる日本と言う国を取り戻せ」と、日本人を激励しているとしか思えない。
「君は君、我は我なり、されど仲良き」
李登輝氏はその講演では、『竜馬の「船中八策」に基づいた私の若い皆さんに伝えたいこと』と題して、幕末に坂本龍馬の提示した近代日本の国家像に倣(なら)って、今後の日本のあるべき姿を語った。
たとえば、第4議の「外国の交際広く公議を採り、新に至当の規約を立つべき事(外交は公論に従って、新たに対等の条約を結ぶ)」に基づいて、李登輝氏はこう説いている。
アメリカへの無条件の服従や中華人民共和国への卑屈な叩頭外交、すなわち、頭を地につけて拝礼するような外交は、世界第二位の経済大国の地位を築き上げた日本にそぐわないものです。
特に、これからの日本と中華人民共和国との関係は、「君は君、我は我なり、されど仲良き」という武者小路実篤(むしゃこうじさねあつ)の言葉に表されるような、「けじめある関係」でなければならないと思います。
(『愛知李登輝友の会ブログ「【李登輝講演録全文】竜馬の「船中八策」に基づいた私の若い皆さんに伝えたいこと」)
この言葉から思い起こされるのが、李登輝氏の総統時代の対中外交である。
たとえば、私の総統時代、中共から絶えず激しい挑発を受けました。すると、台湾の国民も大きく動揺して、「とにかく恭順の意を表しておこう」という者や、「いや徹底的に戦って相手を屈服させよう」という者など、さまざまな人々からさまざまな反応が出てきます。こういうときにこそ、もっと大局的な視座からもっと大きな判断を打ち出すのが、民の上に立つ者の務めだと痛感しました。…
台湾に対しても中共は絶えずミサイルなどで脅しをかけてきます。しかし、それぐらいでぐらつくほど「新台湾」はひ弱ではありません。
あんなものは、単なるブラフ(JOG注:脅し)にしか過ぎない。大陸は、台湾に対して80発ぐらいのミサイルを重要な個所に撃ち込めると言っています。しかし、私たちは、それに対する態勢も十分に完備していますから、文字通り「備えあれば憂いなし」で全く恐れてはいないのです。
(『「武士道解題」 ノーブレス・オブリージュとは』李登輝 著/小学館)
中共のミサイルなにするものぞ、と立ち向かう李登輝氏の姿は、まさに日本の古武士の姿を見るが如くである。