小泉政権時代に3度も廃案になった「共謀罪」の趣旨を盛り込む、組織犯罪処罰法改正案が3月21日、閣議決定されました。このいわゆる「共謀罪」法案は、政府や警察の解釈によって、どんな組織や集団でも「テロリズム集団」と定義付けされ処罰の対象になる可能性が問題視されています。「現代版・治安維持法」ともいうべき改正法案の閣議決定について、新聞各紙はどのように報じたのでしょうか? メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんは、各紙の報じ方を詳細に分析することで、この国家の暴走とも言うべき「共謀罪」についてどの新聞メディアが監視できているのか、あるいは擁護しているのかを炙り出しています。
閣議決定された「共謀罪」法案を、各紙はどう報じたか
「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が閣議決定されました。今国会でなんとしても成立させたいというのが安倍政権の姿勢。それにしてもひどい法案です。
テロ対策だ、オリンピックを成功させるためだと言いながら、当初、どこにも「テロ」の文言がなかったんですね。与党からも「それは変だ」と指摘されると「確かに変だ」と気付いたのか、慌てて「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」という表現を書き込んだのです。「どこかにテロって書いておけばいいんだろ!」と言わんばかりに…。
でも、これは全くおかしい。
法案は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と書き込みましたが、“テロリズム”に対する定義がどこにも書かれておらず、政府あるいは警察が「テロリズム集団だ」と名付ければそれまで。要は、「テロリズム集団」という表現では、何も範囲が限定されていないわけで、何でも当てはまることになってしまいます。
とはいえ、「その他の組織的犯罪集団」と書いてあるから、大丈夫と思われるかもしれません。犯罪を目指していなければよいのだからと。しかし、これも違います。政府統一見解で、ごく普通の団体が性質を変えた場合にも認定される可能性があるとされましたから。つまり、その団体がどんな経緯で作られたのか、名前は何か、目的は何か、そうしたことは一切関係ない。「犯罪を共謀する」という行為があれば、その人間集団はいつでも「組織的犯罪集団」になれるというわけですな。「百人一首を楽しむ会」が、ある日、極悪テロ集団に“認定”されることだって、ないとはいえない。
早い話、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」は、ありとあらゆる団体のことを指しているのです。だいたい、「何かとその他」と言えば、「全部」という意味ですよね。「テロリズム」も「組織的犯罪」も、何一つ限定しない、あらゆる団体がその対象となることを排除されないのですから、「何かとその他」という表現、実は何も言っていないに等しい。というわけで、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とは「組織一般」と完全に同義となりますし、いやいや、もっと言えば、「組織」である必要さえない。コミュニケーション可能な複数の人間…これが実際の取締対象になる。組織の名前は警察が後で適当に付けてくれるでしょう。きっと。
今回上程されようとしている「共謀罪」の法案は、テロリズムとは無関係に、多くの犯罪に共謀罪を適用することで、究極の目的は完璧な密告社会を作り出すことだと私は考えています。法案の呼び名も「共謀罪」よりも「密告奨励法」の方が相応しいくらいかもしれません。その辺りのことについてはまた別の機会に。
【ラインナップ】
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「「共謀罪」全面対決へ」
《読売》…「住宅地 下げ止まり」
《毎日》…「「共謀罪」法案 衆院提出」
《東京》…「犯行前に処罰可能」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「「テロ」強調 本質変わらず」
《読売》…「「共謀罪と別」強調」
《毎日》…「テロ対策か否か」
《東京》…「「テロ」現行法で対処可能」
ハドル
《読売》の1面トップ外しが奇異に感じられるくらい、各紙全面的にこの問題を扱っていますので、今朝は「共謀罪」ということで。今日のテーマは…閣議決定された「共謀罪」法案を、各紙はどう報じたか、です。
基本的な報道内容
政府は、計画段階での処罰を可能とする「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を閣議決定し、国会に上程した。対象となる犯罪は277あり、テロ対策を標榜するが、捜査機関の裁量によってテロと関係ない市民団体などにも適用可能で、日常的な行為が犯罪の準備行為として直接処罰の対象となる恐れが指摘されている。さらに、「実行に着手する前に自首したものは、その刑を減軽し、又は免除する」と規定され、密告を奨励する。
犯罪の具体的な行動を伴う既遂や未遂を処罰するものであった日本の刑事司法の原則を転換し、憲法が保障する内心の自由や思想の自由に警察・検察などの取締当局が容喙し、人権を大きく毀損する危険をはらむ立法が行われようとしている。
監視の恐怖
【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、7面の「教えて」、16面と17面のオピニオン欄と社説、39面社会面まで。見出しを抜き出す。
1面
- 「共謀罪」全面対決へ
- 与野党、会期末にらみ
- 法案閣議決定
- 内心の自由 踏み込む危険(解説)
2面
- 「テロ」強調 本質変わらず
- 政府案文言なし 異例の追加
- 277に減 目立つ暴力団対象
- 「成案でたら答弁…」法相に野党照準
39面
- 監視の恐怖さらに
- 「市民が相互不信に」
- 知らぬ間に病歴漏出
- 「無関係な人にも広がる」
- 隠しカメラ 警察が設置
- 「話し合いで犯罪の可能性」
- 沖縄抗議活動
uttiiの眼
《朝日》の姿勢は1面の作り方に顕れている。
まずはトップ項目の大見出しを「共謀罪」という言葉で飾っていること。政府は、今回の法改正は小泉政権時代に3度廃案となった共謀罪とは違うもので、その適用を「テロ組織や暴力団など組織的犯罪集団」に限るうえ、話し合っただけでは罪に問われず、「準備行為」が必要だとしている。だが、この「組織的犯罪集団」は、もともとは正当な活動を行う集団であっても「性質が一変すれば」対象になりうるものであり、「準備行為」が何を指すかはそもそも不明確。いずれも警察や検察がどう考えるかによって決まってくるという代物。これまでの不十分な国会審議でも分かってきたそのような法案の問題点に鑑み、《朝日》はこの法案を「共謀罪」と呼んでいるわけだ。記事の中に〈おことわり〉があり、法案には「犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨が盛り込まれており、朝日新聞はこれまでと同様、原則として「共謀罪」の表現を使います」とし、政府の呼称である「テロ等準備罪」は必要に応じて使用するとことわっている。
2面の「時時刻刻」は、“解説”というよりも“ノート”に近い記事だが、指摘されている事実の中に重要なものがいくつかある。1つは、この法案が成立しても何らテロ対策にならないことを、検事出身で自民党の議員である若狭勝氏が明言していること。若狭氏は「予防拘禁」を主張する程の人だが、少なくとも今回の法案の対テロ効果はほとんどないと言っている。
またこの間、しばしば国会で立ち往生するに至った金田法相のサポート役をと考えたのか、法務省刑事局長を政府参考人として法務委員会に出席させることが決まっているようだ。金田氏だけならあっと言う間に火の手が上がってしまうだろうことは想像に難くない。
オピニオン欄には刑事法学専門で神戸学院大学教授の内田博文さんがインタビューに応じている。「共謀罪」は近代刑事法の原則を変えてしまうものであること、戦前の治安維持法と同じ役割を果たしそうであること、さらに、これによって警察は盗聴のしたい放題になることなどが話されている。