肥満とマイクロバイオーム
それでは、肥満についてマイクロバイオームとの関係を見てみましょう。第一に、マイクロバイオームは人間が吸収するカロリーに影響を与えます。体重は人間が食べたカロリーによって決定するのではありません。実は、体重は人間が吸収したカロリーによって決定するのです。すなわち、食べたカロリーと吸収されるカロリーとは同等では無いのです。
もちろん、ブドウ糖や果糖などの単糖類は容易に吸収されます。しかしながら、でんぷんなどの多糖類は消化酵素によって単糖類まで分解されなければいけません。実は、多くの種類の多糖類は人間の消化酵素のみでは分解されないのです。
そこで登場するのがマイクロバイオームです。これらの腸内微生物叢が作る消化酵素によって、消化されにくい種類の多糖類であっても、人間が吸収できるような単糖類に分解されるのです。
脂質でもそうです。脂質は脂肪酸とグリセリンからできています。脂肪酸は長い分子構造を持っており、あまりにも長い脂肪酸は吸収されないため、長さの短い脂肪酸にそれぞれ分解される必要があります。これもやはり腸管内のマイクロバイオームの仕事ですね。
肥満とファーミキューツ門
ところで腸内の細菌叢の約90%は2つの種類の細菌のグループ(生物分類の階級では門と呼びます)からなることがわかっています。ひとつはバクテロイデス門であり、もう一つはファーミキューツ門です。ファーミキューツ門には、ブドウ球菌、腸球菌、クロストリジウムなどがあります。
肥満との関連で最近問題視されているのは、ファーミキューツ門です。バクテロイデス門と比べて、このグループの細菌は栄養素の分解能力が高く、その結果として人間の腸が吸収できるカロリーが増えることがわかりました。
それに、最近の研究では、太っている人の腸内にはファーミキューツ門が比較的多いということがわかりました。また、高脂肪食を与えたラットではこの種類の細菌門が増えていることもわかりました。このマイクロバイオームと肥満との関係についての詳細は次回にお話したいと思います。
文献
The Microbiome and Risk for Obesity and Diabetes Anthony L. et al. JAMA. Published online December 22, 2016.
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