文部科学省の元官僚が早稲田大学に天下ったとされる一連の問題は、事務次官の辞任を経た今もなお新たな不正が次々と噴出するなど、収まる気配がありません。しかし、「とんとん拍子に事務次官辞任にまでコトが進んでしまった」この件について引っかかりを覚えるという、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、情報のリークを含めた「官邸が描いたシナリオがあるに違いない」として、そう判断せざるを得ない論拠を記しています。
天下り防止の監視組織をもっと拡充せよ
官僚の天下りはなくなっていない。そんなことくらい、誰でも察しはついていただろう。
文科省で大学ににらみを利かせていた担当局長が、有名私大に天下り。絵に描いたような事例だ。
だが、何か引っかかる。有名無実に近い組織だった内閣府の「再就職等監視委員会」がにわかに動きだし、とんとん拍子に事務次官辞任にまでコトが進んでしまったのだから。
再就職等監視委員会は、退職する官僚が、省庁の権限をバックに、求職したり、就職先を斡旋してもらったりするのを防ぐためのチェック機関である。
だが、監視委員会といっても、証券取引等監視委員会のようなものを想像したら大間違いだ。
委員長が常勤だが、他の4人の委員は非常勤。事務局員が1名いて、違反行為の調査を担当する再就職等監察官は全員、非常勤、しかも10人ほどしかいない。
委員長は特別職の報酬を得ているが、監視委事務局の平成28年度概算要求を見ると、月2回の会議に出席する委員4人分の手当は合計232万円。監察官については、10人分の雇い上げ経費として、586万円が計上されているだけである。
賃金としては「期間業務職員1人分334万円」のみ。これが事務局員への給料らしい。期間業務というから、1年契約の臨時的な雇用形態だろう。
つまり、この組織はオフィスに委員長と非正規雇用の事務局員1人がいて、月2回委員会を開催、必要に応じて年間10人ほどの非常勤監察官を雇い上げているのが実態なのだ。
この態勢で、巨大な霞ヶ関の官僚組織に目を光らせよといっても、どだい無理な話ではないか。
このような弱小組織にしてしまっているのは、民主党政権時代も含めて、天下り規制に政権中枢が本気を出していないからである。
裏事情を心得ている霞ヶ関はあまり目立たないよう、実質上の天下りを続けていく方法をさまざま編み出した。
たとえば、OBに民間のダミー会社をつくらせる。そこを通して再就職先の斡旋や調整を行う。実務は省庁の人事部門があたるにせよ、すべてその民間会社がやっていることにすれば問題にならないというわけだ。
監視委員会が設けられてはいても、その内情を知っているため、はなから甘く見ている。
もちろん、委員長や委員、監察官らはがんばって職務に励んでいることだろう。とくに、今回は、あまりに露骨なケースであり、見逃すわけにはいかなかったに違いない。
そういう意味では文科省も油断が過ぎた。問題になったのは、2015年8月に退官した高等教育局長、吉田大輔氏の件である。同年9月から吉田氏は早稲田大学大学総合研究センター教授という職に就いた。