日本企業が独身男性向けに売り出した「バーチャル・ホームロボット」に、日本の将来を案ずる声や孤独を救うと言った意見など、世界から賛否両論の声が上がっている。
スマート家電操作もできる「バーチャルお嫁さん」
「バーチャル・ホームロボット」は、株式会社ウィンクルが「Gatebox」という商品名で販売する「バーチャルお嫁さん」で、ロボットというにはほど遠い可愛らしい女性の姿をしたホログラムを映し出す機器だ。ホログラムは高さ52センチのシリンダー内に投影され、マイクやスピーカーを通してやり取りができ、センサーで持ち主の感情などを読み取ることもできるという。さらにWi-Fiなどを通じて、天気予報などの情報を教えてくれたり、スマート家電を操作したりもしてくれる。今年12月14日に先行予約を開始し、来年12月に順次配送する予定だ。300台のみの限定販売だが、同社ウェブサイトによると、わずか5日間で予約は200台を突破したという。
ホログラムの中にいるキャラクターは「逢妻ヒカリ」(あずま・ひかり)という名の女性で、ドーナツ好きの20歳だ。同社ウェブサイトによると、商品は娯楽や効率を目指したものではなく、「好きなキャラクターがいつも隣に居てくれる、そんなリアルとバーチャルが混じり合う未来の世界」(同社)の実現に向けたものなのだという。
「キモい」では済まない、深刻な問題を反映
Gateboxは配送先が日本とアメリカに限られており対応言語も日本語のみだが、「バーチャル・ワイフ」として世界中の注目を集めた。
ニューズウィーク誌は、日本の出生率の低さなどに触れた上で、恋愛に関心を持たない日本人の傾向は「人間と親密に付き合うことからの逃避」の表れだという日本の恋愛カウンセラー、アオヤマ・アイ氏の指摘を紹介した。同誌は、本商品がこうした問題の解決策にはならないものの、ますます孤立する世代に安らぎを与えるだろうとしている。
一方でフォーチュン誌は、本商品を「Icky(日本語で言うなら”キモい”)」と表現した。ただし、「それだけではない」と続ける。「働きすぎの若い男性がロボットに交流を求めてしまうこの疎外感は、日本の風土病だ」と説明する。さらに、日本の生涯未婚率や出生率、高齢化、厳しい移民政策、労働・雇用状況の悪化などの諸問題に触れ、アメリカで作られるホームアシスタント機能なら娯楽性や効率性が重視されるが、日本ではその社会経済状況において、ホログラムでできた妻が必要なのだと結んでいる。
「憂うつになる」、「孤独感を解消」など賛否両論
日本のアニメや漫画、ゲームなどの最新情報の発信などを行うトーキョー・オタク・モードはフェイスブックのページで、本商品の販促ビデオを紹介した。逢妻ヒカリと生活する若い男性の1日を描く、英語字幕付きのビデオだ。すると世界中から2万件以上のコメントが寄せられた。その多くはかなり真剣で、日本が抱える問題を親身になって心配する内容も少なくない。
「めちゃくちゃ憂うつな気分になるんだけど」というコメントには1万5000件以上の「いいね」が付いている。他にも、「日本の出生率0%になるわ」や、「この男性、ビデオの中で他の人間と一切会話していないよ。申し訳ないけど、日本はフェイクの話し相手にお金をつぎ込むのをやめて、人間同士のコミュニケーションを教えた方がいいんじゃないの!?」という意見もあった。
ただし、否定的な意見ばかりではない。「人って新しいものにはネガティブに反応するよね。でもうまく使えば、孤独な人の憂うつな気分を解消するのに役立つかもしれないし、自殺も防止するかも」や、「(ビデオの)エンディングは寂しい気分になったけど、日本では若い世代を中心に自殺率が高い。これのおかげでいい気分で1日を終えられるなら、よかったね、と思う。でも落ち込んでいる人たちがちゃんとしたサポートを受けられればいいな」というコメントもあった。
この商品の価格は1体29万8000円(税抜)。一気に普及するような金額でも販売数でもないため、日本が抱える社会問題にすぐに影響するものではないだろう。しかし、孤独に苛まれているのは何も若い世代だけではない。孤独な高齢者の話し相手や家でのサポートに、熟女バージョンや、おじい・おばあバージョンといったものがあっても面白いかもしれない。自分の親が熟女バージョンを持っていたら……と考えると、もっとマメに連絡しよう、という思いにはなるが。
(松丸さとみ)