今までみなさんに絶大な支持をいただいた、NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載ですが、いよいよ最終回となりました。大河史上稀に見る傑作と、歴史ファンからも賞賛を浴びた『真田丸』は、いかにして誕生したのでしょうか? そして2年以上にわたって、このドラマに「戦国軍事考証」という重要なご意見番として携わってきた西股総生さんは、どのような思いで『真田丸』を見つめてきたのでしょうか?
今回のワンポイント解説(12月18日)
これでとうとう最終回なのだけど、僕は道明寺や天王寺口の戦いについて、分析・論評を加える気にはなれない。家康の和議に乗って大坂城の外周部を破却したのちに再戦に及んだ時点で、豊臣方の戦略は破綻したからだ。戦略の失敗を戦術で取り戻すことはできないのが、戦いのセオリーというものである。 そこから先は、不可測性と流動性が支配する世界で、ただひたすら死闘あるのみ。無論、一発逆転の可能性もゼロではなかったが、大穴を狙ってバクチを打つようなものだ。
なので、最後に『真田丸』全体に対する僕の感想を書きとどめておきたい。まず、僕はかねがね、大河ドラマには「適度なホラ話感」が不可欠だと考えている。この点については、『真田丸』は申し分ない。出浦昌相や佐助の繰り出す、思わず笑ってしまうような忍術が、史実をベースとしたシリアスなドラマの中に、違和感なく組み込まれているホラ話感は、最高である。
次に、登場人物の全員がきちんとキャラ立ちしていた点を、高く評価したい。これは、三谷マジック以外の何物でもなかろう。僕の実感としては、今年の大河は女子ウケがよかった印象がある(女子とばかり話していたから? 笑)。でも、女子ウケがよかったのは、イケメン俳優を並べたからではなく、キャラをきちんと描けていたから。NHK には、このことを理解してほしいと思う。
わけても、僕の印象に残った人物は、きり。これまでの大河には登場しなかった画期的なキャラだが、彼女が活躍できたのは、側室という存在を公に認めたからでもある。主人公を爽やかな英雄として描こうとすると、きりのような等身大の女性は登場できないのだ。この点は、『真田丸』の登場人物たちが、単純な善人としても、悪人としても描かれていないゆえにキャラ立ちしていたことと、深くかかわる。
僕自身が携わった、城や合戦シーンについて言うなら、今までの大河とひと味ちがうシーンを提供できた、という一定の自負はある。でも、もう少し何とかしたかった要素が残るのも事実。たとえば、 城のCG やセットには「その城らしさ」を表す要素が、もう少しほしかった。これは、今後の課題だろう。 というより、『真田丸』の成功によって、戦国大河に対する視聴者(特に歴史ファン)の要求水準が上がってしまった、と見るべきだろう。この現実に、皆さまの NHK がどう向き合ってゆくのか、お手並み拝見と行きたいものだ…。
ちなみに、僕は考証陣の中でも、拘束時間が比較的短くて楽な方だったと思う。でも、これだけボリュームのあるドラマに関わるというのは、精神的な拘束度合いが思いのほか強く、僕のキャパでは正直しんどかった。もう一度やってくれと言われても、ちょっと勇気が出ない(笑)。
それにしても、真田信繁という人物。事績はよくわからないのに、つい、彼について語りたくなったり、彼の物語を紡いでみたいと思わせる、何かを持っている。それも、リアリティのある物語を。そうしてNHKも三谷さんも、出演陣も、考証陣も、そして視聴者も、この一年、「信繁と幸村」に翻弄されてきたのだ。なるほど。死して400年ののちまで人々を翻弄してやまない「日の本一の兵」こそ、 恐るべしである。
ごあいさつ
最終回なので、ごあいさつを。
僕(西股)が、NHK から最初にお声がけをいただいたのは、一昨年の夏のこと。丸島和洋さんのご推挙によるものだった。その時点で決まっていたのは、タイトルが『真田丸』、脚本が三谷幸喜さん、主演が堺雅人さん、というくらいの事。丸島さんと局に呼ばれて、プロデューサーさんや主だったスタッフさんたちとのブレーンストーミングに臨んだあと、渋谷までの道すがら「ずいぶん厳しい箝口令を敷かれたものですね」などと、丸島さんと話していたのが、つい昨日のことのようにも、遠い昔のようにも感じられる。
それから、いろいろな事があったけれど、思えば丸々2年以上も、このドラマに関わってきた事になる。最後の台本をチェックし終えたときは、肩の荷が下りてホッとしたような、淋しいような、何ともいえない気持ちがこみ上げてきて、しばらくは放心状態だった。ただ、間違いなくいえるのは、『真田丸』は大河ドラマ史上屈指の傑作として、歴史ファンの皆さんに語り継がれるだろう、ということ。 この仕事に携わることができて、本当に光栄だったと思う。
この「ワンポイント解説」は、番組作りに関わっている立場から、『真田丸』を皆さんにより深く楽しんでいただきたくて、始めたものだ。ただ、僕は「ドラマではこうでしたが、史実はこうでした」みたいな細かな話は、あまり書かないように心がけてきた。なぜなら、僕は真田の専門家でもなければ、大坂の陣を研究しているわけでもないから。あくまで、城や合戦に詳しい人という立場から、一般論として制作側にアドバイスをするのが、僕の仕事。それに、細かな史実の補足などは、時代考証にあたっている丸島和洋さん・黒田基樹さん・平山 優さんが、ネット上や講演など、いろいろな場で説明してくれるだろう。だったら、そこは彼らにお任せするのが筋というものだ。
かわりに僕は、ドラマの背景になっている時代の雰囲気や社会の仕組み、戦いの原理みたいなものを説明することにつとめてきた。また、僕自身は文章を書くことしか能のない人間だが、さいわい、みかめゆきよみさんの秀逸な1コママンガと、野澤由香さんの適切なサイト管理のおかけで、 皆さんがドラマを楽しむためのお手伝いができたかと思う。 というわけで、一年間「今週のワンポイント解説」をご愛読いただきまして、本当にありがとうございました。(西股総生)
《今週のワンポイントイラスト》
あっぱれ真田、日本一の兵! 死して四〇〇年後…いやもっと先まで人々を翻弄し続けるでしょう! 1年間ワンポイント1コマにお付き合いいただきありがとうございました。(みかめ)
文・絵/TEAM ナワバリング(西股総生・みかめゆきよみ)
ナワバリスト(城郭研究家)の西股総生率いる、お城(主に山の城)と縄張りを愛する3人組
メルマガ『TEAMナワバリングの『真田丸』ワンポイント講座』
本メルマガでは大河ドラマ『真田丸』戦国軍事考証を担当する西股先生によるワンポイント講座を中心に、書籍、イベント活動などの情報を発信します。
《ご登録はこちらから》
★イベント情報★
第 1 部「今こそ語りたい第2次上田合戦と大坂の陣」…西股総生
第 2 部「サブカルで楽しむ歴史とドラマ」…西股総生・みかめゆきよみ・磯部深雪(予定)
日時 :12月23日(金) 14:00~15:00/15:30~17:00
場所 : 新宿クラブツーリズム(西新宿駅前・新宿アイランドウィングビル)
コース番号
第1部 C2021-912 入場料 1,000 円
第2部 C2022-990 入場料 500 円
◎1月15日(日) クラブツーリズム 小倉城(埼玉県)~日帰り現地集合・現地解散
戦国の石積みで知られる小倉城ですが、占地と縄張りの意味を読み解きながら、いつ・誰がこの場所に城を築いたのか、考えます。山歩きのできる靴と服装でご参加下さい。
旅行代金 5,500 円
コース番号 03339-098 でお問い合わせ下さい
★『図解・戦国の城がいちばんよくわかる本』 KK ベストセラーズから発売中
★『復元イラストで見る「東国の城」の進化と歴史』河出書房新社から発売中
★『真田丸』がより一層楽しめる4コマ漫画、『ふぅ〜ん、真田丸』発売中
今週の『真田丸』SNS反応【編集部まとめ】
最後、信之と本多佐渡の会話の辺りで胸一杯になってしまってな。大坂からの急使を受けて、それと察して信之には多くを語らず目礼で去っていく佐渡。六文銭の音で弟の死を察して、それでも前に進んでいこうとする信之。目頭が熱くなった。#真田丸
— Watanabe (@nabe1975) 2016年12月18日
真田丸が終わった後の私#真田丸 pic.twitter.com/DED3k8QT00
— まみ氏 (@onemanlive_rad) 2016年12月18日
#真田丸 まずは、皆様方お疲れ様でした。まさに「戦国を終わらせた真田」と「平和を掴もうとする真田」の兄弟が象徴的に描かれる、素晴らしい最終回でありました。これは真田の物語とすべきならば、まさに「戦国の真田」と「太平の真田」を一話で見た物語でありましょう。
— 地雷魚 (@Jiraygyo) 2016年12月18日
弟は、今なお生き続ける愛しい者たちを想って最後の瞬間、笑った。
兄は、未来を見据えて、歩んでいった。
#真田丸 #丸絵圧巻の爽やかなラストに涙が止まりません。1年間、ものすごいものを魅せていただきました。ありがとうございました。塗り途中だけどもういい、上げる…! pic.twitter.com/pklefp316c
— 高枝景水@冬コミ12/30金)西ほ10b (@namazudou) 2016年12月18日
自分で自分にビックリした。 #真田丸 https://t.co/oSdXl0D4ID
— たられば (@tarareba722) 2016年12月18日
徳川家康ナレ死どころかナレ倒幕!お見事!(笑)#真田丸 pic.twitter.com/FCZhZZpmTy
— 名前はまだ決まらない (@namaehamada_nai) 2016年12月18日
結局家康が死んでも徳川の世は動かないということを完膚なきまでに見せつけた形になったよねえ。自分が死んでも徳川は盤石だと分かっているから最後は逍遥として死を受け入れようとする家康、それを颯爽と助けに来る秀忠と絵的にそれを示している。信繁の戦う意味は何だったのかと。#真田丸
— すいか (@suika1015) 2016年12月18日
「逃げるは恥だが役に立つ」を見事に体現して見せた大御所様 #真田丸
— 伊達 政宗 (@bot_dt_masamune) 2016年12月18日
伊賀越えを越えた躍動感#真田丸 pic.twitter.com/KAGdV7cjho
— akir (@arien0727) 2016年12月18日
これ、三十郎が見た最後の信繁の後ろ姿よね…号泣#真田丸 pic.twitter.com/BVjwU4n6R0
— 名前はまだ決まらない (@namaehamada_nai) 2016年12月18日
最後まで本当に素晴らしい大河でした。悲しいより感激の涙が出て、本日はこれしか描けません。でも、最終回の丸絵だけど最後のではないです。とにかく最高のキャストさん、最高のスタッフさん、そして共に応援して見続けた皆さん、ありがとう! #真田丸 #丸絵 pic.twitter.com/5QZU5Q8xci
— ふるゆき (@natumey) 2016年12月18日
源次郎の腕の中の人生…喜怒哀楽#真田丸 本日最終回😢 pic.twitter.com/0AuVIs63PK
— kimi∞MASATO:::真田丸::: (@kakukimi57) 2016年12月18日
真田丸のおかげで本当に楽しかった。三谷幸喜さん、俳優の皆さん、制作に関わった全ての皆さん。ありがとうございました!!!#真田丸 #nhk
— ぬえ@真田丸終わるなんてご冗談でしょう (@yosinotennin) 2016年12月18日
約1年間ご愛読ありがとうございました。全50回分の裏解説がありますので、気になる方はそちらもよろしくお願いします。(MAG2 NEWS編集部)