異文化ビジネスコンサルタントでメルマガ『心をつなぐ英会話メルマガ』の著者・山久瀬洋二のコーチング現場より、実際にあった様々な会話例をもとに異文化摩擦について考えるシリーズをご紹介します。
今週のテーマは、
「欧米型経営と日本型経営。組織運営の長短とは」
です。
外資系企業に勤めている人がいいます。
「私は日本の企業の重厚なヒエラルキー、人間関係のややこしさがいやで、外資系に勤めているんです」
確かに、多くの外資系企業は、組織がフラットです。言葉遣いも比較的カジュアルで、機動性にもとんでいます。
「でも、私は以前外資系に勤めていたんですが、結局こちらは下手な英語で必死で話をして、提案しても、日本の事情なんて一考もされず、本国の要望だけが押し付けられたことも多々ありました。だから嫌になって日本企業に戻ったんです」
「問題が深刻ならばエスカレーションescalationをすればいいじゃないですか」
「エスカレーションしても、その時は聞いてくれるけど、最終的には無理なんですね。なぜかわかりますか?外資系企業は上司へのライン一つをとっても複雑でしょ。このプロジェクトのレポートラインは香港だけど、そのために受ける研修の指示はヒューストンの人事部だって風に。しかも、東京のオフィスには本国からきた支社長がいて、東京としての利益や業績についてとやかくいうわけ。だから、一つ問題がおきても、組織としてがっちりと受け止めて解決しようという体制がないんですよ」
ここでいうエスカレーションとは、何か課題があったとき、それを解決するために上層部に問題を提起することを意味しています。
外資系企業の多くが、レポートラインが複雑であることはよく知られた事実でしょう。
ソリッドラインsolid lineとドットラインdot lineという言葉があって、直属の上司はソリッドラインで結ばれていますが、それとはことなり、プロジェクトの内容によってはドットラインという別のレポートラインが存在します。
常に一人の上司に報告をしておけばよいという日本の企業とは常識が違うのです。
マトリックスmatrixな環境でウエブ状に拡大してゆくのが欧米型の企業なら、常に社長から末端までのピラミッドをもって物事を進めてゆくのが多くの日本企業ということになります。
支社の管理も同様です。
支社が常に本社を向いているのが日本企業なら、(欧米型は)支社の中のユニットがそれぞれ各地にレポートラインを持ち、支社長は全体として支社の業績向上について本社に責任を持つのみで、各ユニットの詳細への指示は行わないケースが多いのです。
「確かに、ユニットごとにばらばらで、統率がとれていないかのように見えるかもしれません。でも、だからこそ、上下関係などを気にせずに自らがリーダーシップをとれば、フラットな組織の中で面白い仕事ができるんですね」
「でも、最終的には日本の支社のニーズに相手に関心を集めることは無理なのでは。ユニットごとにばらばらだと、日本の状況を全体的に捉えることもできないはずですね」
「外資系企業が日本の市場のニーズに即応できずに、業績があげられないケースはあるでしょう。でも、逆に日本の組織が育って、利益があがり、しっかりと本社にアピールすることができるようになれば、海の向こう側にある上層部に対してレポートするのではなく、逆にレポートを受ける側になることも可能なはずです。常に本社が報告するラインの最終的権威である必要はないのですから」
「だけどね。日本企業だったら、例えば一塁と二塁の間にボールが来れば、誰かが気を聞かせて対応したりするよ。でも、僕のいた外資系企業なんて、たまたま誰かが立席していて電話がなっていても誰もとらないケースが多かったよ。余りにも組織がビジネスユニットごとに分割されていて、こうしたオフィス全体を考えるというような気配りというかマインドがないんですよ」
すると、外資系企業に勤める人がシニカルに笑っていいました。
「それってよく言われることなんです。結局日本企業は物事の進め方がしっかりしているよっていいたいんでしょ。じっくり考えて、りん議して物事を決めるのだから、詳細まで配慮されているって。しかも、人はスペシャリストである前に、会社全体を知るジェネラリストであれって思っている人も多いはず。でも、私は単純に考えるんです。電話を取る人がいなければルールを作ればいいだけだって。マインドなんて抽象的なことではなく。もしかしたら、電話を専用にさばく人を雇うように提案してもいいかもしれない」
「日本企業ではね。電話がなっていると、まず新人がそれを取るって暗黙の了解があるんですよ。そのようにして応対の仕方も覚え、社会人として鍛えられてゆくわけ」
「だから、そんな日本企業が嫌で外資に行く人が多いんですよ。社会人として育てるなんて、会社のすることじゃないでしょう。これって個人の問題だし、余計なお世話なの。プロとしての専門知識をどれだけ学べるか。そのことを考えたとき、海外の企業はとても合理的で人を平等に扱ってくれる。確かに外資系企業のすべてがいいわけでもなく、中にはひどいところもあるけれど、最先端をいく企業の環境は確かに日本企業に比べればカジュアルで動きも迅速。なんといっても世界中の人材と直接コンタクトし、話をし、そうした人と混ざって活動できるのが素晴らしいのよ」
日本企業と欧米型の企業の双方に長短はあるでしょう。
ただ一ついえることは、日本の企業はもっと海外とフラットに付き合う方法を研究するべきなのではないでしょうか。
私は、多くの日経企業が、外国人を採用しても「お客様」としてしか扱わず、権限移譲ができないままに組織がグローバルに育たないケースを多くみてきました。
その課題を解決するためには、海外の企業の業務ラインのノウハウを学ぶのも一案かもしれません。
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