トランプ氏の米大統領就任が、米ロ関係を急速に改善させるとの見方が各方面で語られています。10月にシリアで起きた米軍による誤爆以来ギクシャクしていた両国の「和解」は、世界の安全保障上喜ばしいことではありますが、日本にとってはメリット・デメリットどちらのほうが大きいのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが読み解きます。
プーチン、トランプとの関係を語る
先日、「プーチン訪日を前にして、ロシアの態度が硬化している」という話をしました。その理由について、「トランプが勝ったからだろう」と。「…わけわからないぜ!」という方は、いますぐこちらをご一読ください。
さて、プーチンは最近、トランプについて語りました。
プーチン氏、トランプ氏勝利「米と関係改善のチャンス」
朝日新聞デジタル11/30(水)23:19配信
ロシアのプーチン大統領が30日、モスクワで講演し、米大統領選でのトランプ氏の勝利について「ロ米関係改善のチャンスが生まれると信じたい。両国の国民にとってだけでなく、世界の安定と安全のために重要なことだ」と述べて、対米関係立て直しへの強い意欲を示した。
ここからわかること。
トランプとプーチンは、一貫して「米ロ関係を改善させたい!」と言い続けている。トランプは、プーチンとの関係改善を語り続けることで、選挙戦が有利になったとは思いません。むしろヒラリーは、「トランプは、プーチンの操り人形だ!」と攻撃材料に使っていました。それでも、トランプがひるむことはなかった。つまり、トランプが「ロシアとの関係を改善させたい」という意志はホンモノなのでしょう。一方、プーチンの動機は単純です。西側陣営のボスになるトランプに、制裁を解除して欲しい。
さて、プーチンは、トランプとの電話会談について語りました。
プーチン氏は講演で、トランプ氏と11月14日に電話した際に「ロ米関係の不満足な現状は正常化しなければならないという考えで一致した」ことを明らかにした。その上で「我々の側はそのための道を行く用意がある」と表明した。シリアやウクライナなど、米ロの意見や利害が対立する問題で、トランプ氏とは折り合いを付けられそうだという期待感がにじむ発言だ。
シリア問題について。オバマはとても不誠実な言動を繰り返していました。まず、皆さんご存知のように、オバマ・アメリカは、「反アサド」である。そして、オバマは「反IS」でもある。なんと言っても、ISは外国人を公開処刑しているし、テロもバンバン起こしている。それで、アメリカと有志連合は、ISを空爆しています。ところが、オバマは、本音でISを壊滅させたくなかった。なぜ? アメリカとISは、「反アサド」という点で、利害を共有しているから。それで、アメリカの空爆はゆるゆるで、ちっともISは弱体化しなかった。
2015年9月、ロシアが、「IS空爆」に参加します。プーチンの目的は、アメリカとは全然正反対で、「アサドを守ること」。それで、ISの石油インフラを破壊し尽くし、壊滅的打撃を与えることに成功します。
トランプは、二面性のあるオバマのシリア政策にあきれているのです。彼のシリア観は、以下のようなものです。
- 最悪の存在は、欧米でテロをするISである。
- アサドも悪だが、別に政権にいても、アメリカに迷惑はかけていない。
- プーチンは、無料でISを攻撃してくれている。アメリカにとってありがたい存在である。
現状は、「プーチンがISと無料で戦ってくれている」ことで、トランプは感謝しているのです。
では、ウクライナはどうでしょうか? トランプは、「ウクライナは、アメリカの問題ではない。欧州の問題だ」としています。ウクライナ内戦は、2015年2月に停戦合意がなされ、その状態が続いている。トランプ・アメリカが介入をやめれば、平和は続くでしょう。ただ、ウクライナは捨てられた状態になり、事実上、クリミア半島、ドネツク州、ルガンスク州を失います。大国に利用される小国の悲劇ですね。