Windows95の設計にも携わった世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者である中島聡さんが、メルマガ読者から届いた質問に回答するQ&Aコーナー。今回は「日本政府のスパコン戦略」について、中島さんは「195億円もの税金を使って、一体何がしたいのか全く分からない」と一刀両断。スパコン開発は「ITベンダーへの税金の垂れ流しでしかない」と、日本政府の戦略性の無さを痛烈に批判しています。
日本のスパコン戦略に疑問
Question
産総研、AI特化のスパコン開発に着手 深層学習で世界一狙うという記事を読みました。中島さんは、国のスパコン戦略には否定的でしたが、今回はどうでしょう。
中島聡さんの回答
私の国のスパコン戦略に対する意見は、2013年に「スパコン『京』に関する素朴な疑問」という記事を書きましたが、基本姿勢は変わっていません。
単なる従来型のスパコンから Deep Learning を意識したものにシフトした点だけは評価できますが、195億円も税金を投じて大きなスパコンを作って、一体何がしたいのかが私には全く理解できません。
現時点で、本気で Deep Learning の研究をしている研究者は、自作のパソコンに高性能な GPU カードを挿して専用マシンを作っています。ニューラルネットワークのトレーニングには膨大な計算能力が必要で、彼らにとっては高性能な専用マシンが必須なのです。
パソコンとは言え、最新のGPU カードは一昔前のスパコン並みの能力を持っており(例:NVIDIA TESLA M40 は 7 teraflops)、そんなマシンを、一人の研究者が、何時間も何日間も占有して使える時代になったのです。
そんなニーズに応えようと、Amazon も GPGPU のレンタルサービスを充実させ始めましたが、まだまだ値段が高く、何時間もマシンを専用して学習させるのであれば、自作マシンの方がコストパフォーマンスが良いのが現状です。
国は195億円も税金を投入したスパコンを使い、何をしようというのでしょうか? 国立大学に安く時間貸しするのでしょうか? そのあたりが私には全く見えて来ません。
実際のところは、これは「IT公共投資」と名のつく、(製造を受注することになる)日本のITベンダーへの税金の流し込み以外の何物でもなく、これによって日本の国際競争力が増すわけでもないし、投資したスパコンが日本のAI研究者の数を増やすわけでもありません。
もし、日本のAI研究者を増やしたいのであれば、日本の各大学にAIの研究のために使用する高性能パソコンの購入を補助するだけで十分です。