11月21日、大統領就任初日にTPPからの離脱を通告することを明らかにしたトランプ氏。その批准に並々ならぬ意欲を見せていた安倍総理にとって大きな痛手となりました。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では「問題だらけのTPPが潰れたのはまことに喜ばしい」としその失敗の本質を考察するとともに、日本が今後確立すべき「アジアの論理」とその先にある欧米諸国との経済連携協定への対処法について私見を記しています。
TPPにおける「失敗の本質」──21世紀の新ルールはどう作られるべきなのか?
トランプが米国の次期大統領に決まったことで、TPPは敢えなく頓死した。クリントンが勝っていれば、「君子豹変す」で辛うじて生き返る可能性が5%くらいは残ったかもしれないが、トランプではそれはありえない。
安倍晋三首相はTPPを、経済面からの「中国包囲網」と位置付けると共に、もはや刀折れ矢尽き果てたアベノミクスの「規制改革を通じた輸出増大」(農協を潰せば農産物輸出が増えて、景気がよくなるのだそうだ!)の最後の柱としてこれに過大な望みをかけて、その批准と関連法案の成立に血道を挙げてきたが、これで内外政ともに焦点を失って漂流状態に陥ることになった。
彼がニューヨークに飛んでトランプに面会したのは、慌てふためいていることを告白しているようなもので、無様なことこの上ない。NHKのニュースを見ていると、トランプ・タワー前にいる現地特派員が「ご覧のように多くのメディアが玄関前に詰めかけています」などと叫んでいるけれども、そうじゃないでしょう。別に安倍のトランプ訪問に注目して世界のメディアが集まっているのではなくて、事実上の組閣本部が置かれている同タワーにたくさんの陣営幹部や閣僚・高官候補が出入りしているから、常時そこに張り付いているだけなのだ。
するとまたスタジオのアナウンサーが「なぜトランプ氏は最初の会談相手に安倍首相を選んだのでしょうか」と問いかけ、安倍の子飼いの女狐記者に「やはりトランプ氏としても日米同盟の重要性は認識しているものと思われます」と答えさせているが、そうじゃないでしょう。トランプは「選んで」いない。安倍が会いたいというから短時間ならいいですよと応じただけで、安倍以外に世界のどこの国の首脳もすぐに会いたいなどと言い出さなかったというだけのことである。
当たり前の話で、現職のオバマ大統領がまだ2カ月も任期を残していて、もし安倍がTPPの行方が心配で仕方がないのなら、オバマに会ってトランプ対策を協議するのが筋であって、失礼極まりない行いである。日本の外務省はそういう外交常識を説いたが、安倍は無視したという。
安倍としては、「ダメなオバマ」に代わって自分が自由世界の結束と自由貿易の推進をリードするのだという誇大妄想に舞い上がっているのかもしれないが、そうやってTPPの「遺骸にすがりつくような未練がましい姿を晒せば晒すほど、トランプ陣営は「そうか、そんなに自由貿易が好きか。ならば、トランプ流の『アメリカ・ファースト』原理に立った日米2国間FTAに日本を引っ張り込んでやろうか」という意地悪な戦略に出て来る危険性が増す。
トランプ自身が選挙中から、(メキシコからの不法移民についてあれだけ酷いことを言いながら)NAFTA(北米自由貿易協定)については一度も「廃棄」とは言わず「再交渉」と言ってきたこと、それを受けて陣営幹部が「トランプは決して自由貿易そのものに反対している訳ではない」などと発言していることは、日本にとって日米FTAの押しつけという最悪事態がありえない訳ではないことの兆候と受け止めなければならない。安倍の行いは脳天気に過ぎる。