さよなら米国。トランプの「米国ファースト」がもたらす世界の終わり

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米国内のみならず、全世界に衝撃を与えたトランプ氏の大統領選勝利。彼は世界に何をもたらすのでしょうか。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では冒頭に「米国民は自爆テロ犯を自分たちの政府に送り込んだのと同じだ」という英紙の解説を引きながら、トランプ新大統領の登場で「全世界が直面する混乱」を詳細に分析、さらに日本が注意を要すべき彼の「思想の核」についても言及しています。

「トランプ大統領」という世界にとっての災禍─頓死する? グローバリズム

米国民は自爆テロ犯を自分たちの政府に送り込んだのと同じだ」と英紙『フィナンシャル・タイムス』のエドワード・ルース解説委員は書いた(10日付日経)。「合衆国憲法で慎重に扱うべきとされていることを軽んじると分かっている人物を大統領に選ん」で、「既存のシステムを粉々にすること」を託したのだから、ホワイトハウスの真ん中でどんな惨事が起きても、その結果を米国民は引き受けなければならない。しかしトランプが粉々にしかねないのは、国内秩序だけではない。「米国は第2次世界大戦後の世界秩序をつくり、守ってきた。トランプはその秩序を捨てるとはっきり語って選挙を戦ってきた」。他に解釈の余地がないこのメッセージに「世界は振り回されることになる」……。

問題は、米国主導のグローバリズムが経済・軍事の両面で完全に行き詰まってしまった中で、米国自身がその限界をどちらに向かって乗り越えていこうとするのか、である。トランプの「偉大なる米国の復活」は明らかに後ろ向き・内向きの道で、グローバル化以前にまで戻ろうとするかのようである。それに対してヒラリーが本来やらなければならなかったのは、その限界を前向き・外向きに超えていく道筋を示して、それを「21世紀米国の世界の中での生き方」の問題として論争に持ち込むことであるはずだった。が、彼女にはそのようなエスタブリッシュメント代表に相応しい矜持も戦略的思考も欠けていて、そのためトランプのペースによる誹謗中傷合戦の泥沼に引き込まれてまさかの敗北を喫してしまったのである。グローバリズムは一気に頓死する可能性に直面することになった。

グローバリズムなど、壊れても一向に構わないのだが、それを主導してきた米国の指導層が思考停止に陥って世界を無秩序の中に投げ込むのは余りに無責任で、その意味でトランプ大統領は、米国民はともかく、世界にとっては最悪の選択だった。

私がアフガニスタンとイラクの2つの戦争の最初の5年間を総括した本に『滅びゆくアメリカ帝国』というタイトルを付けたのは2006年のことで、その時はまだ「こんなことをしていたらいずれ米帝国は滅びるだろう」というニュアンスに留まっていて、何とかして米国は「帝国の終わり」に自分自身を軟着陸させるべきで、それが出来ずに硬着陸に行き着いて全世界を不幸にすることだけはやめてほしいという願いのようなものを、そのタイトルに込めていた。が、それから10年、いよいよ本当に米国が硬着陸的に帝国滅亡の坂道を転がり始めた転換点として、この選挙は歴史に記憶されることになるのだろう。

国際政治アナリストのイアン・ブレマーも「今回の大統領選挙はパックス・アメリカーナ米国主導の平和に終止符を打つものだ」と断言している(11日付日経)けれども、パックス・アメリカーナが終わるのは当然であって、その終わり方が問題なのだ。

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