「アリのように働く」とフランスの首相に揶揄されたこともある日本人。働けば働くだけ潤った時代は「長時間労働」にそれなりの意味もあったかもしれませんが、今やブラック企業という言葉が当たり前になるほど、労働時間に対する見返りの少ない時代になってしまいました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「長時間労働で経済が成長することは幻想であり、国益を破壊する」と警鐘を鳴らしています。
労働時間短縮は、日本の「国益」?
私は、「日本は世界一すばらしい国」と確信しています。モスクワに26年住み、いろいろな外国を見た結果の確信です。
しかし、そんな日本にも、「これはちょっと」と思うことがあります。それが、「働きすぎ」。いえ、「働かせすぎ」。なぜそう思うかというと、「働かせすぎ」が日本の国益に大きな打撃を与えているから。なぜ?
8時間労働の歴史
皆さんも聞いたことがあると思いますが、19世紀の欧州では、労働環境がひどかった。労働時間は、1日14時間だったともいわれています。女性、子供も容赦なく働かせていた。朝の8時にスタートすると、夜10時まで。朝9時にスタートすると、夜11時まで。「なんだ。俺もそのくらい働いているぞ!」という読者さんも、結構いるかもしれません。
いずれにしても、「これはひどい!」ということで、「労働時間を短くしよう」という動きが起こってきます。イギリスでは1847年、「工場法」が制定されました。年少者や女性の労働時間は10時間と決められます。労働時間の短縮や労働条件の改善を目指す国際機関、国際労働機関(ILO)は、1919年に設立されました。ILOは当初、「労働時間1日8時間、週48時間」の世界実現を目指していました。つまり、当時は「週休1日制」だった。ところが後に、「1日8時間、週40時間」を目指すようになります。「週休2日をグローバルスタンダードにしよう」と。
このように、「労働時間を短くする世界的取り組み」には、すでに100年ちかい歴史があるのです。
過酷な労働条件が、革命を起こす
19世紀、欧州の労働者は、過酷な条件下で働かされていた。その怒りを原動力に、パワーを得た思想があります。それが、共産主義。共産主義の話をすれば一冊本を書けますが、簡単にいえば、「労働者が資本家を打倒し、皆平等の共産世界を築くのは、歴史の必然だ!」という思想。
虐げられている労働者が、いじめている資本家を打倒することは、正当化される。それで、アッという間に世界に広がってしまった。1917年、ロシア革命。世界ではじめて、共産主義をベースにした国家ソ連が誕生します(正式な建国は、1922年)。共産国家はその後、東欧、中国、北朝鮮、ベトナム、ラオス、カンボジア、キューバ等々、全世界に勢力を拡大していきます。
もとをただせば、会社が「過酷な労働を強いたこと」が共産主義陣営の誕生と成長の理由なのです。だから反共産主義の人こそ、「8時間労働の厳守」を主張すべきです。
さて、「資本家皆殺し」を掲げる共産国家の誕生は、資本主義国である面肯定的な反応を引き起こしました。資本主義諸国の政府は、「俺達の国で共産革命を起こされたらたまらん!」と考え、労働者に優しくなっていった。