同じ量を食べても太る人と太らない人がいるのはナゼ? 痩せの大食いを見るたび、不思議に思いますよね。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、著者で早稲田大学教授・生物学者の池田先生がイギリスの科学ジャーナリストの著書を取り上げながら、肥満の謎に迫りつつ、食肉と肥満の因果関係についての怖い「仮説」を紹介しています。
肥満は腸内細菌のせいだった
近年、腸内細菌の重要性が叫ばれている。日本では寄生虫学者の藤田紘一郎が、腸内細菌がヒトの健康に大きな影響を及ぼすことを、繰り返し強調している。先ごろ、イギリスの科学ジャーナリストのアランナ・コリン(Alanna Collen)が書いた『10% Human─How your body’s microbes hold the key to health and happiness』が邦訳された。題は『あなたの体は9割が細菌─微生物の生態系が崩れはじめた』である。原題は10%人間、邦題は9割細菌と意味は同じだが、見方がひっくり返っているところが面白い。
ヒトの体の表面(皮膚や腸壁)には沢山の細菌が棲んでいる。コリンの本によれば、腸内細菌だけで、4000種100兆個の細菌が生息しているという。中には3万種1000兆個と見積もっている学者もいる。ヒトの総細胞数は37兆個だから、1000兆個が本当だとすると、ヒトの体を構成している細胞の僅か3.7%だけがヒトのゲノムを持った細胞ということになる。細菌の種類数が多いということは遺伝子の多様性も高いわけで、細菌の持っている遺伝子の総数は440万個にも上るという。ヒトの遺伝子の総数は2万1000個だから、この観点からは、ドーキンスではないが、ヒトの体は細菌の遺伝子の乗り物である。