吉田「で、Sさんの俺基準な厳重注意ですとここまで礼儀正しいドライバーであれば許せる許容範囲なようですが、中々いないんじゃないですか?」
Sさん「そうだね。ここまで徹底して礼儀正しく対応するドライバーは……300人に1人ぐらいかなぁ。いや、500人に1人ぐらいかもしれない。捕まえた時にさ、心の中でどこまで俺基準のルールっていうか礼儀をわきまえて接してくるか常に意識をしているんで、クルマを停車させて、俺が白バイを停めて運転席まで歩いて向かう行為までさせた段階でもうアウト」
吉田「でも、普通に考えたら運転席からドライバーはクルマを停車させて出てこないもんですよ。大抵はクルマをアイドリングさせたまま運転席側の窓を開けて警官と対応しますもん」
Sさん「それがダメなんだよ。俺が一番嫌いなドライバーの対応。まず警官を運転席まで向かわせる行為に失望する。自分から降りてこちらへ来るぐらいの礼儀作法があればどんなにスピード違反したとしても、俺基準では厳重注意だけで終わらせる。やはりドライバーに求めるのは礼儀作法なんだよ。それは俺が体育会系で育った環境だったからかもしれないが、このような俺基準っていうのは人間力高い警官であれば持っているはずなのでね」
吉田「え? 人間力低い警官だとどんなに小さな違反だったりしてもあたりかまわず反則金を得るべく違反キップを切っているってことを、暗に否定しているってことでOKですか?(笑)」
Sさん「そこまで言ってねーだろよ(笑)。たださ、俺も白バイ隊員になったばかりの3年目ぐらいまでは小さな違反とかでも容赦しないで青キップは切っていたよ。だけど、本当にこれでいいのかって思うようになった。しかも違反するのを待ち伏せする行為もおかしいだろって思い始め、厳重注意だけで終わらせる俺基準というルールを作り始めたわけ。でさ、俺基準を始めた年から圧倒的に違反者検挙数が俺だけ署内で激減。そりゃ当然だ。白バイ隊員はバイク……特に原付バイクは捕まえやすいので小さな違反者を捕まえまくる。なぜならば原付は時速30kmまでしかスピードが出せない。しかし、国道や優先道路では大抵50km前後の速度をみんな出している。そうしないと道路が円滑に進まないし無駄に渋滞してしまう。かと言って原付は30kmでそんな広い道路で走っていると邪魔扱いされるわけで気の毒な状況を生み出しているのも事実。俺はそういう原付が50km出しているからって20kmオーバーで検挙しまくる白バイ隊員には絶対なりたくないって思っていたから、1度も原付がそういう状況下で50km出していたとしてもスルーしていたんだよ。本来はダメなのは分かっている。だけど、違反キップを切るだけが白バイ隊員じゃない。厳重注意や警告だけでもいいじゃないかって思ったんだ」
吉田「うわー、Sさん熱いなぁ。そういう性格って分かっていたので僕はSさんに付いて仕事したっていう部分もあるので、ちょっと胸が熱くなりました!」
Sさん「でも50kmオーバーしていたら、さすがに世間的にもよろしくないので原付は速度違反で検挙するけどな(笑)」
吉田「結局のところ検挙数を増やさないと出世できないでしょうから、大変だったんじゃないですか?」
Sさん「出世ばかりが警官の役目じゃないだろ。もうさ、出世したがって本来の警官たるものを忘れている同期生の連中が山ほどいてね、俺は辟易してしまったからなんだよ。警官は運転免許証を持っている人から反則金というカツアゲ行為を繰り返し、そして収益を上げて潤わせる悪循環にはいまだに疑問を感じている」
吉田「でも、ノルマがあるでしょうから検挙数が減ると評価されなくなって良い思いはできないんですよね?」
<次回へ続く>
image by: Jedsada Kiatpornmongkol / Shutterstock.com