牛丼チェーンの「松屋」を手がける松屋フーズが、低価格のとんかつチェーン店「松のや(松乃家)」に注力しています。松屋フーズは2004年から始めた新業態「チキン亭」でトンカツの販売を開始。現在は、「松乃家」「松のや」の店名で約100店舗(2016年10月5日現在)を全国で展開しています。無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では、これまで「かつや」(アークランドサービス)が独占していた同業態に松屋フーズが進出した理由、そして急成長を遂げつつある「松のや(松乃家)」の戦略を詳しく紹介・分析しています。
今回は「松のや(松乃家)」を分析します
牛丼チェーン「松屋」を展開している松屋フーズが力を入れている低価格のかつ丼屋を分析します。
● 松のや(松乃家)(低価格とんかつチェーン店)
戦略ショートストーリー
家族連れや揚げ物が面倒な女性(テイクアウト)をターゲットに「牛丼チェーン松屋で培ったノウハウ」に支えられた「安い」「24時間営業」という強みで差別化しています。
売り物、売り値、売り方、売り場、それぞれにおいて、「かつや」と「同質化」を図りつつ、みそ汁付きや24時間営業など+αの要素によって顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
「ブルーオーシャン」
価格競争が激しい牛丼業界の三強の一角である松屋フーズにとって、かつ丼業界は、ブルーオーシャンに見えているようです。
ブルーオーシャンとは競争のない未開拓市場のことですので、「かつや」がパイオニアとして、約300店舗を展開している低価格かつ丼業界は、厳密にはブルーオーシャンとは言えないのですが、激しい価格競争が行われているレッドオーシャンである牛丼業界で戦う松屋フーズからしてみれば、限りなくブルーに見えるということでしょう。
実際に、牛丼業界はどうなっているかというと、「すき家」が約2,000店舗、「吉野家」が約1,200店舗、「松屋」が約1,000店舗となっており、3社合計で4,000店舗を超えています。そして、店舗数は2013年以降、横ばいとなっています。出店の余地が少なくなってきている(飽和状態)ということでしょう。
松屋フーズが低価格かつ丼チェーンをどこまで出店できると見込んでいるかはわかりませんが、仮に牛丼チェーンの3分の1くらい(1,400店舗)は、出店できると見込んでいた場合、
- 1,400店舗-400店舗(かつや+松のや)=1,000店舗
は出店できることになります。この半分の500という見込みだとしても出店余地がこれだけあるということは、店舗を増やす余地のない牛丼と比べると、非常に魅力的ですね。
主な競争相手が「かつや」だけというのもポイントです。常に2社の動きを意識しなければならない牛丼業界と比べると1社の動きを注視していればよいので、戦いやすいといえるでしょう。
しかも、まだ、「かつや」の店舗数が約300店と少ないので、「松のや」が出店しても、店舗同士の距離が近くなることは、少ないと考えられます。つまり、現時点では直接「かつや」と競合することは少ないということです。
そして、まだまだ出店余地があるということは、今後、店舗数を増やす戦い(シェアを拡大する戦い)、要するに先によい立地を押さえるための高速出店の競争になることが想定されます。もし、そうなった場合、「松のや」に分があるように思います。なぜなら、牛丼業界にて1,000店舗の運営をしている経験があることが大きいです。
私も以前、200店舗から数年間で約800店舗まで増えたチェーン店に関わったことがありますが、これほど急速な出店の経験やノウハウがなかったこともあり、特に店舗の質を維持することに苦労しました。「かつや」も着実に店舗数を増やしていますが、高速出店となると、より未知の部分が大きく、慎重にならざるをえないでしょう。
一方で、「松のや」は、1,000店舗チェーン「松屋」の経験がありますので、高速出店についても、その経験を活かすことができますし、松屋の人材も活かすこともできます。
そして、出店ペースをあげるために重要となる資本力でも「松屋フーズ」に軍配があがりますので、出店競争では、有利に働くと思います。
低価格かつ丼業界は、すかいらーくグループが「とんから亭」で参入するなど、活発な状況ですので、これから先にどのような展開となっていくのか、注目していきたいです。