ハリウッド映画を見る機会はたくさんあるけれど、映画業界で働く人たちの世界はなかなか知られていませんよね。アメリカの映画業界で仕事経験のある著者が発信する、有料メルマガ「Ministry of Film – ゼロからのスタジオシステム –」では、そんなハリウッド映画業界の裏事情について詳しく説明しています。意外かもしれませんが、ハリウッドは「村社会」なんだそうです。
ハリウッド仕事の流儀 「ヒエラルキー村社会・ハリウッド」
「アメリカの映画業界で仕事を見つけるにはどうしたらよいか?」と、折にふれて質問されることが最近増えてきた。
筆者は幸いなことに、日本を拠点としながらもフリーランスとして、一年の半分弱はアメリカ映画の現場仕事で海外を転々としつつ、それでも将来への保証は必ずしもない状態で綱渡り的に仕事を続けられているが、これはどこからはじまったのか。
結論からいえば、筆者のこれまでの仕事は例外なく「紹介」によるものであり、紹介者はすべて留学時代に出会った人が起点となっている。ということは、「紹介者を見つけ、その人に仕事を紹介してもらえばよい」という答えが見いだされるが、その紹介者がいない人はどうすればよいのか。
ハリウッドは村社会である、ということは以前にも触れた話題であるが、村社会なりの理屈で、仕事を配分する「しくみ」が整っている。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」の精神で、ハリウッドにおける雇用を、雇用する側の視点から概説を試みたい。
村社会の理屈は、その村を守るために作られており、日本でいう「一見さんお断り」の店と論理が似ている。
「映画」というモノの性質上、華やぎのある、きらきらとした世界を想像する人が多い。そのイメージに惹かれ、ハリウッドの門戸をたたく人が世界中から集まり、どのような役職に対しても、供給できる仕事量を大幅に上回る需要が続いている。
具体的には、ハリウッドのある会社のある職種への一般からの応募を募ると、何千という問い合わせや履歴書が集まる。採用以外の仕事で手一杯な状況において、集まった履歴書をひとつひとつ確認する時間とエネルギーは、当然ない。
これに加え、応募する集団の中で質的なばらつきがきわめて大きいことも、公募をするデメリットである。ピンからキリまで、玉石混交である。選別する手間暇もさることながら、仕事の質を担保する視点からも、公募はリスクが大きく、最終手段としての位置付けにあるといえよう。
そのような事情もあり、ある職種を去る人がいれば、その代わりを埋めてくれる人を自分の周囲の近い人から聞いて回る方法がとられることが一般的だ。そのような人を知っているかいないか、また、ある仕事が空いたらおすすめしたいと思ってもらえているか否かが、仕事にありつけるための必要条件となる。
インターンを最下層としたヒエラルキー構造となっていることもハリウッドの仕事市場の特徴であり、上の職種は原則として同じ職種、またはヒエラルキーの下の職種から引き上げる形で採用が行われる徒弟制度の傾向が強い。便宜上ざっくりまとめると、
エグゼクティブ(プロデューサー、エージェント、etc)
↑
アシスタント
↑
インターン
という序列があり、ハリウッドで働き出す者はすべからくインターン、またはアシスタント職からキャリアを築き始める。
インターンの場合、アシスタント職にいる人が「ボス」となり、インターンがそのアシスタント的役割を担うことが多い。
アシスタントの仕事の至上命題は、ボスの仕事の手間を減らして人生を楽にすること。
原則として週5日の仕事ではあるが、結果的には “24/7″(「トゥエンティーフォーセブン」とよむ。「常時」の意) でボスのニーズに応えることになる。
具体的には秘書的な仕事が多く、ボスの電話番、日々の予定の調整、フライトのチケットやホテルの確保、会食の場所の選定・予約、プレゼントなどの届け物、場合によっては飼い犬の散歩や洗濯物の処理まで多岐にわたる。
その合間に、たとえばボスが読む必要のある脚本を代わりに読み要点と意見をまとめる、といったクリエイティビティを要求される仕事が混ざる。
ボスと並走することにより、ボスの仕事ぶりをつぶさに観察し、自分がいずれボスの立場になったらどうするだろう、といったことを考えながら仕事をしてくれる人が理想的だ。
当然、仕事のできる、若く、優秀な人がほしい。
長く同じ空間で同じ時間をともにすることもあり、性格が好ましく、容姿も淡麗であればなお良いだろう、というのが現実的なところだ。
アシスタント職の仕事はフルタイムということもあり、大学を卒業したばかりの者が担当することが多い。
学生でありながら週に数日のペースで参加できるインターンは、教育的効果を見返りにしながらも、アシスタントより負う責任が少なく経験を積むことができる点で、アシスタント職になる前段階と見られる。
そのインターン、大学または大学院に在学中の学生が大半を占めるが、こちらも実は非常に「閉じた」母集団からの選抜がなされる。
なので、仮に映画業界へキャリアチェンジと思い立ち、一発奮起してロサンゼルスに移住したとしても、インターンの募集の情報すら手に入らず、そのきっかけすらつかめないまま終わってしまいかねない。
それを乗り越えるためにはどうするか。
コネだ。
次回はコネについて、その出来上がり方から使い方までを俯瞰することとしたい。
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Ministry of Film – ゼロからのスタジオシステム –
映画製作/観賞/ビジネスにまつわる知識、理論、情報、思想、経験。「Ministry of Film(MOFi)」はそれらを集約し共有するための読み物です。発行者は、映画業界での国際的なキャリア構築を志す若手日本人2名。それぞれが米ロサンゼルスの権威ある映画大学院(AFI、USC)で学んだカリキュラムを下地に、実務レベルでの「ハリウッド」と、世界の映画事情を解説します。メンバーのリアルタイムな活動記、映画にまつわるニュースの解説、そして毎回異なるテーマでのコラムを中心に展開します。