糖質制限の提唱者である医師の江部康二先生と、先日『おやじダイエット部新入部員 脱・メタボ14日間の旅! 』 を上梓したばかりのノンフィクション作家・桐山秀樹さんによるスペシャル対談。“糖質制限との出会い”を語っていただいた第一回、“長続きさせるための食生活のコツ”を伺った第二回に続く、今回のテーマは“糖質制限と人類の歴史”について。“日本人は農耕民族”って、長いスパンで考えると誤解だったんですね……。
日本人の歴史と糖質制限
桐山:そういえば最新のデータなんですが、日本の糖尿病予備軍患者が減ってきているんですよね。
江部:そうそう。厚生労働省が5年に1回集計してる糖尿病有病率によると、2007年の調査では5年間で150万人増加していたのが、2012年の調査では5年間で60万人増と、糖尿病患者の増加の勢いがかなり衰えた。さらに、2012年調査による糖尿病予備軍の数は、2007年から約220万人減少と、こちらもかなり減った。
桐山:ものすごい減り幅ですよね。
江部:戦後以降、食生活の中で糖質を摂る量が減って、逆に脂肪を多く摂るようになったから、肥満や糖尿病が増えたって言われてるけど、あれは全然違う。日本がまだ貧しい頃は、お金が無かったら、食事における糖質の割合がとても多かったんですよ。
で、高度経済成長で皆がお金持ちになると、お肉・お魚・乳製品を多く食べるようになったから、ビューッと脂肪の摂取量が増えて、逆に糖質の割合が減ったわけ。その状態はしばらく続いていたんだけど、97年からは再び脂肪の割合が減り始めて、糖質が増え始めた。その97年以降も、糖尿病の患者の数はずっと増え続けとったわけでしょ。
桐山:そうですよね。
江部:で、これは最新の統計で2010年から2012年の比較だけど、これまでずっと減っていた脂肪の摂取比率が1%増えて、逆に糖質の割合が1%減った。この時期は先ほども言った通り、糖尿病増加の勢いが衰えて、糖尿病予備軍の数も大幅に減った。……でも、戦後一貫して糖尿病学会・医学界・厚生労働省は、ずっと“カロリー制限して運動しろ”としか言ってないわけやろ。
桐山:そう考えるとタイミングとして、先生が2005年に『主食を抜けば糖尿病は良くなる』を出版して、糖質制限を提唱しはじめたことが原因となってるとしか、考えられないですよね。
江部:まぁ、糖質制限を実践するとまではいかずとも、炭水化物の摂りすぎは良くないってことで、ラーメンライスとかうどんとおにぎりとかっていう“ダブル炭水化物”の食事を控える人が、ここに来て増えたんじゃないかなって、さすがに。
桐山:そうですね。
江部:それから、さらにとんでもない事実があってね。アメリカでは1990年から2010年まで、糖尿病合併症は減り続けているの。心筋梗塞なんか58%も減ったのかなあ。ところが日本は、合併症はほとんど減ってない。
桐山:それはどうしてなんでしょうね。
江部:これが戦前とかの話だったら、医療レベルの差とかが考えられるんだけど、今や糖尿病の治療法とか薬剤なんかは世界共通なんよ。そうなるとその原因は、アメリカの糖尿病食の糖質量が40%なのに対して、日本は糖質60%だという差しか考えられないのよ。
日本の糖尿病患者は、糖質60%の食事を食べ続けているから合併症が減らない。ちなみにアメリカ人の平均的な食事は糖質の割合が50%で、それで糖尿病患者は増えている。ただ糖尿病になったら、糖質40%の食事になるから、糖尿病にかかってもその先の合併症までいく人は激減したわけ。
桐山:ところで、日本のカロリー制限食が糖質60%なのは、どういった経緯でそうなったんですか?
江部:それがまた酷くて、根拠が全くないの。日本人の平均がだいたいそのあたりだから……ぐらいで。エビデンスの欠片もない。
桐山:日本はお米文化だからとか、そんなくらいの理由ですよね。