日本の4~6月期の実質GDP成長率は、前期比0.04%増、同年率換算0.2%増と、ごくわずかなプラス成長にとどまった(速報値、季節調整済み)。1~3月期は、うるう年効果もあって、前期比0.5%増、年率2.0%増(改定値)と比較的好調だったため、落差が注目を浴びた。4~6月期の成長率はエコノミスト予想を下回るものだった。それでもエコノミストらは、必ずしもこの結果には驚いていないという。日本を取り巻く状況や、日本の潜在成長率の観点から、妥当な数字だとの意見もある。日本の大幅な経済成長はもはや夢でしかないのだろうか。
前期よりも、予想よりも低かった
ロイターやウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、4~6月期の日本経済の「失速」「ほとんど失速」を伝えた。インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)や米ニュース専門放送局CNBCも、表現は異なるが同様の事実に注目して報じた。ロイターやINYTは、安倍首相が日本経済に持続的な成長への道筋をつけるのに苦労しているという観点から報じている。ロイターは、この結果は安倍首相に、もっと持続可能な成長を生み出す政策を見つけるプレッシャーをさらにかけるとしている。
ロイターやブルームバーグによると、今回の結果はアナリストの事前予想を下回った。どちらも、予想の中央値は前期比0.2%増、年率0.7%増だったと伝えている。ただ、4~6月期の(前期比)成長率が低かったのは、1~3月期の成長率がうるう年効果で押し上げられていたため、相対的にそうなったとの指摘があり、WSJやブルームバーグが伝えている。
日本経済の低成長率を当たり前に受けとめるエコノミストら
この予想より低い成長率も、エコノミストにとっては必ずしも驚きではなかったようだ。CNBCは、このパッとしない結果のせいでエコノミストらが慌てることはなかったと伝えている。建銀国際証券(CCBインターナショナル・セキュリティーズ)の株式ストラテジスト、マーク・ジョリー氏は、「かなりの円高、経済の不確実性、原油価格の反発がある中、日本経済がほとんど成長していないのは驚きではない。この数字は過去5年間の平均的な経済成長率だ」と、日本経済を取り巻く状況にCNBCの番組で注意を促した。
WSJは、GDP成長率は予想よりわずかに低かったものの、多くのエコノミストが、日本の潜在成長率の低さを考えると、日本の経済成長率がほぼ0%なのも驚きではないと語っていると伝えた。潜在成長率とは、国内の「資本」「労働力」「生産性」をフル活用した場合に達成可能と考えられる成長率だ。WSJによると、日本の潜在成長率について、日銀は7月の推計で前年比0.21%、内閣府は0.3%としている。そこで、輸出の低調といったマイナス要因で簡単にマイナス成長が引き起こされる、とWSJは説明している。
BBCでは、米ステート・ストリート・グローバル・マーケッツのマクロ戦略責任者ティモシー・グラフ氏が、4~6月期の成長率は「もっとずっと悪い可能性があった」と語っている。「国内消費、設備投資の減少と、円高のせいでの純輸出減少の可能性をめぐって懸念が膨らんでいた」とし、「目下の経済成長の減速の勢いがこれ以上に激しいものでなかったことに、いくらか安心感があるかもしれない」と語っている。
ジョリー氏はCNBCで、「日本が0~1%で成長している限り、それはすばらしい結果だ。株式市場(投資家)の観点からいえば、総じて日本経済に安定性がある限り、日本株に関してかなり安心していられる。ゆえにこの結果は期待できるとおりのものだ」と語っている。
これらエコノミストの見方には、実際のところ日本の現状を考えると、あまり大きな成長率は期待できない、という期待の低さが見受けられる。INYTは、日本では労働力人口が減少し、またエレクトロニクス産業などで競争力が低下しており、この20年間の平均では1%未満の成長率が続いている、と指摘している。経済成長率はプラスとマイナスを行ったり来たりしている、とも語っている。
アベノミクスの効果は今でも続いているのだろうか
4~6月期のGDP成長では、住宅投資や公共投資がプラスに寄与したものの、設備投資や輸出がマイナス要因となって足を引っ張った。WSJはこのことを踏まえて、日本の経済成長はいまだに政府の刺激策に主として頼っていることを示していると語り、公共投資の寄与分がなければ4~6月期はマイナス成長になっていただろう、と語る。内閣府発表によれば、公共投資の寄与分はプラス0.1%と、決して大きなものではないが、確かに、これがなければ0.04%増というプラス領域に達していないのは事実だ。政府は今年度予算のうち約10兆円の事業費の前倒し執行を行ってきている。
これをもって、安倍内閣の経済政策、特に財政政策は、一定の成果を挙げているとみていいのだろうか。ロイターはむしろ、4~6月期の失速は、安倍首相の政策に疑いを投げかけるとしている。BBCも否定的に、政府が積極的に財政支出策を取ったにもかかわらず、予想より低率のプラス成長率だったと伝えた。
ブルームバーグでは、世界株運用にかけてオーストラリアで成績トップのファンド、マゼラン・ファイナンシャル・グループで394億豪ドル(約3兆円)を監督するヘイミッシュ・ダグラス氏が、安倍首相の景気刺激策が機能している「証拠はほとんどない」と語った。同氏は、不振の日本経済は「ほとんどどうしようもない状況」で行き詰まっている、と語っている。
政府は今月、インフラ整備などを柱とした事業規模28.1兆円(うち財政措置13.5兆円)の経済対策を閣議決定している。この対策によりGDP1.3%増の短期的押し上げ効果を見込んでいるとのことだ。INYTはこの対策について、日本のGDPの5%以上に相当する額だと指摘。今後の数四半期の成長率をきっと増大させるだろうが、それがどれほどかは論議の的になっている、と伝える。またCNBCは、一部の銀行は、この対策が望ましい結果を挙げることになるかについて、疑いを持っていた、と伝えている。
安倍首相の次の一手に必要なのは、やはり構造改革か
WSJにおいて、みずほ総合研究所の徳田秀信・主任エコノミストが「根本的に、日本の潜在成長率は低下している。それが意味するのは、政府は単なる刺激策ではなく、構造改革の継続を必要としているということだ」と語るように、専門家らは構造改革の必要性を唱えている。ダグラス氏は、日本は人口高齢化の影響を埋め合わせるため、労働市場の変革と、新たな移民の歓迎を必要としている、とブルームバーグで語っている。
米資産運用会社ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネージメントのマクロリサーチ副部長のChen Zhao氏は、ブルームバーグのオピニオンサイト「ブルームバーグ・ビュー」に寄せた11日付の論説で、日本の「経済問題」は、ほぼ完全に人口問題に根差していると指摘。技術上の重大な突然の変化が生産性を押し上げるか、政策立案者が労働力人口の減少を反転させるために移民を大量に受け入れる気になった場合にだけ、日本経済の潜在成長率を増大させることが可能となる、と語る。アベノミクスが技術に影響を与えられておらず、また移民政策に取り組んでいないのだから、政府がどれだけ熱心に試みようとも成長率は下がり続けるだろう、と指摘している。
(田所秀徳)
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記事提供:ニュースフィア