日本人の美徳として、世界中から賞賛される「おもてなし」の精神。しかし、国内外の「精神保健」の現場を見てきた記者の引地達也さんが発行するメルマガ 『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、デパ地下での精神疾患者の体験学習を通して、「おもてなし」の精神がむしろモンスター客を生み出していると感じたそうです。引地さんは、「心の体調を崩す原因にもなりかねない」と語り、接客業につく人間にストレスを与える日本人の悪しき習性を批判しています。
忙しいデパ地下で「おもてなし」を考える
東京都心の百貨店の地下食料品場は忙しい。多くの人が集まって、その日の食材や贈答品、家族のおやつや自分へのご褒美など、さまざまな目的で食を求める人が行きかう。食料品売り場は、人が多いから、嫌いだという人もいるが、人がいるから活気があり、楽し気な雰囲気にもなるのだろうから、やはり人はいたほうがいいと思う。
この2週間、ターミナル駅とつながる某百貨店のデパ地下のショーケース越しに行きかうお客様を見て、時にはお話をし、買ってもらう、という作業を繰り返している。就労移行事業所者シャローム所沢に通う利用者の職場実習として、販売関係の仕事を希望する利用者に、職場を体験してもらおうと企画したもので、私もエプロン姿で店頭に立っている。そしてショーケース越しの風景からの学びも多い。
精神疾患者の体験学習だから、無理はさせられない。夕方になると、人込みはカオスとなり、商品のやりとりもお金のやりとりも正確なのはもちろん、スピードも求められる。これが強いストレスとなり、結果的に実習ができない人もいた。それでも何か1つでも次のステップに向けてつながれば、それは大成功だと考えている。
以前はコンパニオンとして住宅メーカーのお声かけを担当していた女性利用者は、実習の後にこんな感想を自らのフェイスブックで伝えてくれた。
「今日の午前中は職場実習で、デパ地下にて販売しておりました。久しぶりに出す営業声が昔のままだった(笑)サポートで入って下さった所長が雑務とレジをやってくださったので、私は声出し程度。←私はレジ締めが嫌い。実は病気になってからデパ地下に入れない体質になっていたけど、入口からすぐの場所だったので体調も安定していました(*^^*) なかなか仕事覚えられないけど、今日は楽しい♪と思う余裕が少しだけありました! 次に入る日は、別の作業もやってみたいな( ^ω^ )」。
こんな意見を見ると、やってよかったと思う。