誰しも罹る可能性のある脳腫瘍。中でも特に悪性度の高い膠芽腫は5年生存率が数%というほどです。しかし、その治療に希望の光が差してきました。先日、悪性脳腫瘍治療に抗うつ剤が有効であるという研究結果が発表されたのです。気になるこの情報は、無料メルマガ『Dr.ハセのクスリとサプリメントのお役立ち最新情報』で詳しく紹介されています。
悪性の脳腫瘍に抗うつ剤が効果あり
抗うつ薬の評判は、うつ病には効かないとか、青少年のうつ病にはかえって有害など、あまりよくありません。
ところが今回、ある種の抗うつ薬が悪性の脳腫瘍の治療に有効で、がんが周囲へ拡大するのを抑制するとともに生存期間も延長させることがわかりました。これは、岡山大大学院の松井秀樹教授らの研究グループが英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表したものです。
- 論文タイトル:
Fluvoxamine, an anti-depressant, inhibits human glioblastoma invasion by disrupting actin polymerization - 著者:Keiichiro Hayashi他
- 掲載誌:Scientific Reports, 2016 Mar 18;6:23372 Doi: 10.1038/srep23372.
悪性の脳腫瘍は、がん細胞が健康な細胞に入り込む浸潤性が高く、転移しやすいことが知られています。悪いことに脳の腫瘍は、他のがんに比べて抗がん剤による治療が難しく、中でも悪性度の高い「膠芽腫(こうがしゅ)」は5年生存率が数%と予後が非常に悪いものです。
そこでグループは、がん細胞が移動する際に過剰に現れるタンパク質「糸状アクチン」に注目し、糸状アクチンの形成を阻害できれば浸潤性を抑えられると考えました。抗うつ薬や頭痛薬、抗不安薬など既存の医薬品18種類でその効果を調べたところ、一般的な抗うつ剤の一つが効率的に糸状アクチンの形成を抑えることがわかりました。
マウスの実験でも、がん細胞の広がりが抑えられることを確認し、生存期間も約15%延びたそうです。
研究者らによると、がん細胞の浸潤を抑制するタイプと、がん細胞そのものを攻撃する抗がん剤とを併用することで治療効果を高められる可能性があり、このうつ病治療薬が前者の薬として有望としています。
今後は臨床試験を行う予定だそうですが、一刻も早くその効果が確認できることを祈ります。
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