中国・アリババ会長の「偽物は本物より高品質」発言が世界中で物議

2016.06.20
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

中国の電子商取引(EC)最大手のアリババ集団は、傘下のECサイトでの昨年度(2016年3月期)の総取引額が約52兆円にも達し、今や世界最大の流通企業だ。しかし、そのショッピングモールで扱われている商品には、ブランド品などの偽物が少なくないというのが定評だ。アリババはそのイメージを拭い去るべく、偽物排除の取り組みを行っているが、道はまだ遠いようだ。そんな中、アリババの創業者でもある馬雲会長が「最近の偽物は本物以上に高品質、低価格だ」と発言し、話題を呼んだ。

最近は偽物の品質が高すぎて問題?

馬会長の発言は、14日、中国浙江省杭州市の本社での投資家向け説明会でなされたもの。馬会長は偽物排除の取り組みの難しさについて語っていたようで、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)「チャイナ・リアルタイム・レポート」によると、「問題は、今日では、偽物が本物以上に高品質、低価格ということだ」「それらの偽物は、本物と全く同じ工場で、全く同じ材料を用いて作られているが、ブランド名を使用していない」と語った。またフィナンシャル・タイムズ紙(FT)によると、「われわれは(知的財産を)守らなければならない、偽物を阻止するためにあらゆることをしなければならないのだが、OEMメーカーは現在、より安価でより良い製品を製造している」と語った。ブルームバーグによると、現在では中国製の偽物は本物より良くなっていて、アリババから偽物を根絶する取り組みを難しくしている、と語ったという。

偽物が本物より高品質、というのは誇張表現で、本物に劣らない品質という意味だと思われる。それが本物より低価格なので、それで満足する顧客や、偽物であることを知りながらそれで済ませる顧客がいて、商売が成り立ってしまっているため、排除が難しいということではないか。

WSJは馬会長の発言が、ソーシャルメディア上で一部の人たちの激怒を引き起こしたと伝える。その人たちは、アリババのタオバオ(淘宝)マーケットプレイスに偽物が長年存在していることについて、馬会長が責任逃れをしていると感じた人たちだという。またFTは、コピー商品の販売で利益を得ているとして、アリババを非難している高級品メーカーを激怒させそうである、と評した。

インターネットのおかげで偽物が売りやすく?

一部海外メディアの報道は、偽物のはびこっている現状を、馬会長がある意味当然のこととして捉えているような印象を抱かせる。中国ではそうなのかもしれない。日本や欧米などの多数の企業が長年、中国を生産拠点として使用してきたことと、近年のインターネットの利用拡大がその背景にある。

WSJは、馬会長が、中国で偽物がまん延している昔からの理由、製造のアウトソーシングについて説明していた、とみている。知的財産は結局、企業が完全に管理できないサプライチェーンに行きつく、というのが契約製造の主要な欠陥であり、馬会長はそのことについて語っていたというのだ。

それがどういったかたちで偽物のまん延を招いているかについて、WSJは、ほとんどの場合、有名ブランドの依頼主のために製造している工場が時間外に稼働し、同じ施設、同じ材料を使って類似品を作り、割引して売っている、と説明する。これには、本物そっくりのラベルを備え、本物になりすます全くの偽造品から、有名ブランドの製品に似ているが、ほとんど無名のブランド名で販売される模倣品までバリエーションがあるという。偽造はブラックだが、後者はグレーかホワイトだろう。

馬会長は、こういった模倣業者は中国では常に存在してきたが、これらの中国の製造会社が顧客と直接取引し、製品を販売するのを、インターネットがより容易にしている、と語ったとWSJは伝えている。

ブルームバーグは、世界的ブランドはずっと昔から、販売利益を大きくするため、中国その他の低コストの製造基盤に頼ってきたが、この同じ工場が、年月が経つにつれて世故に長けるようになって、今や、アリババのプラットフォームを含め、インターネットを使用して消費者に直接、自社の製造品を販売している、と馬会長が語ったと伝える。

偽物の話が「ビジネスモデル」の話に?

これらでは、馬会長は偽物作りの話というよりも、模倣品の製造を通じて成長してきた中国の一部製造業のヒストリーを語っているようにも見える。参照した海外メディアの報道を見るかぎり、馬会長はブラックな活動とグレー、ホワイトな活動をひとからげに捉えているようである。

FTによると、馬会長はブランド各社に対して、インターネットによって「ビジネスのやり方が変化しており」、それが伝統的にはアップル、ルイ・ヴィトンなどのサプライヤーを務めてきた中国の工場に、新たなチャンスを生んでいることを受け入れるよう求めたという。これに対して、イタリアのある高級品会社の創設者は「あぜんとした」と語ったという。欧米のブランド各社と、馬会長には、どうやら知的財産に対する意識に差があるようだ。

FTは、高品質の製品を作りながら、結果としてブランド所有企業がもうけの大部分を自分のものにするのを見るだけ、という生産活動の世界的格差に、中国の製造業者がどんどん我慢できなくなっているというメッセージを馬会長は欧米の高級ブランドに伝えたと語っている。

中国の製造業者はそのかわりに、自分たち自身の製品を作り、インターネットを用いて消費者に直接販売する方法を探していた、と馬会長が語ったとFTは伝える。「ブランド各社にとって、商売のやり方は変化した。それらの会社を損なっているのは、偽物でも知的財産(の問題)でもない。それは世界全体に大変革を起こした新たなビジネスモデルだ」と語ったとのことだ。偽物の話がいつの間にか「ビジネスモデル」の話になってしまっており、しかも知的財産の所有者に、その現状を受け入れよと迫っている。

アリババがその後発表した声明の中で、馬会長はこれらの発言について、偽物の擁護を意図したものではないと釈明した(FT)。「これは単に、ブランド各社とOEMメーカーが直面している問題の、私なりの観察である。偽物製造は品質の問題ではない。知的財産の問題だ」と風呂敷をたたんだ。おそらく世界で最も偽物問題に心を配るべき立場にいる人物としては、不注意な発言だったのだろう。

おごる馬会長

馬会長は、偽物問題への自社の取り組みについて、「これは人間の本性との闘いであるため、私たちはこの問題を100%解決することはできない。けれども、私たちは世界のどの政府、どの組織、どの人たちよりも、この問題をうまく解決できる」と豪語している(ブルームバーグ)。

偽物排除は、今後アリババの経営にとっても重要である。ブルームバーグは、アリババがタオバオなどのショッピングサイトの浄化を果たせていないことは、海外の小売商と販売会社を遠ざける可能性がある、と指摘している。これが問題になるのは、中国経済の冷え込みを受けて、アリババは海外での販売比率を高めようしているところだからだ。朝日新聞によると、アリババのECサイトの売り上げは約9割を中国市場に頼っているという。ブルームバーグによれば、馬会長は海外収益を10年以内に5割以上に引き上げたい考えだそうだ。

また中国国内でも、当局から調査のメスが入る可能性があるが、馬会長はこれについてはほとんど心配していないようだ。FTによると中国の規制当局はときどきアリババの偽物問題を調査しているが、馬会長は、アリババの経済的重要性のおかげで、厳しい措置からは守られていると確信している、と語ったそうだ。「アリババを2時間営業停止させることはできない、停止させると中国にとって大惨事となる。テンセントを2日間営業停止させることはでき、バイドゥを2週間営業停止させることはでき、それでも万事問題ないだろうが」とライバルのネット企業の名前を挙げて、馬会長は語ったそうだ。

(田所秀徳)

 

 

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記事提供:ニュースフィア

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