第三者委員会、あるいは第三者的調査に求められるものは、客観的、中立的立場からの事実調査である。そのためには関係する人々からしっかりと話を聞き、資料を収集、分析して、事実をつかむ必要がある。佐々木弁護士が断定的に言う「事実認定」とやらのあり方が、彼のかつて所属していた検察の捜査手法だと思われたら、さぞかし検事諸氏はムカつくことだろう。
東電のケースもそうだが、現実に設置された企業などの「第三者委員会」報告をみると、首をかしげたくなる内容も多い。「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員長である久保利英明弁護士は同委員会のウエブサイトにこう書いている。
21世紀に入ってから、企業不祥事の頻発に伴って世間の信頼を失った経営者の弁明に代わって、第三者委員会が利用されるようになった。しかし、第三者とは名ばかりで、経営者の依頼により、その責任を回避し、或いは隠蔽するものが散見されるようになった。…日弁連業務改革委員会は2011年3月に第三者委員会ガイドラインを公表した。それ以後、多くの第三者委員会報告書はこのガイドラインに「準拠する」とか、「基づく」と表記して、委員会の独立性や透明性、説明責任の遂行に配慮するように改善されてきた。しかし、最近は、このガイドラインの重要な項目に配慮せず、或いは、それに反して「第三者委員会報告書」を僭称したと評価せざるを得ないような報告書が見受けられる事態が起きている。
独立性に疑問符のつく第三者委報告が頻発しているため、チェック機関としての「格付け委員会」が設置されたのである。それほど、弁護士のモラル低下は深刻なのだろう。
逆に、第三者委員会の出した報告が、会社側の思惑と異なっていると、トラブルが起きるケースもある。九州電力が、玄海原発の再稼働をめぐるインターネット説明番組への賛成投稿を自社や関連企業の社員に呼びかけた「やらせメール」事件では、第三者委が九電と佐賀県知事との不透明な関係を指摘したのに対して、九電側が反発、委員会との深刻な対立に発展した。
佐々木弁護士らの舛添問題に関する調査報告は、舛添の思惑に配慮し、多方面からの事実調査をしないまま、「違法性はない」と強調することだけに重点が置かれたもので、久保利英明弁護士が危惧する部類に属するといわざるをえな
い。
第三者委員会には設置に関する法的根拠がないうえ、報告をどう扱うかも依頼者の裁量にゆだねられる。それだけ、依頼者の意向に調査の方向が流されやすいのだ。
第三者的な調査にたずさわる弁護士は、事実解明、原因分析など本来の仕事を淡々とこなすべきである。たとえその結果、依頼主の希望と違う報告書になったとしても仕方がない。事実をねじ曲げるようなことに手を貸すべきではない。
『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋
著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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