日本初の免疫チェックポイント阻害剤・ニボルマブは、切除不能もしくは再発した肺がんに有効とされ、注目を集めています。副作用も少なく、効けば効果は長期的に続くという夢のような「がん治療薬」ですが、ネックはそのお値段。一人当たり年間3500万かかるというこの薬を保険適用すれば国家財政が圧迫されるのは言うまでもありません。やはり、庶民には手の届かない薬で終わるのでしょうか?メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者・池田教授に伺いました。
最新のがん治療薬は国家財政を破綻させる
最近、免疫チェックポイント阻害剤という新しいがん治療薬が注目されている。がんの治療で最も一般的なのは、手術と抗がん剤と放射線療法である。転移のない原発性のがんであれば、手術でがんを取ってしまえば完治する可能性が高い。あるいは、放射線でがんを叩いて死滅させる方法もある。高齢男性に多い前立腺がんは放置しておいても転移しないものが多く、この場合一番体に優しい治療法(?)は放置療法である。 体の中にがんを抱えているのは気持ち悪いと言う人も多く、これらの人は何らかの積極的な治療法を選択することが多いだろう。
最近、免疫系に殺されないタイプのがん細胞は免疫チェックポイント機構を使って、NK細胞やキラーT細胞の活性を弱めて、自らを攻撃されないようにしていることが分かってきた。そこで、免疫チェックポイント阻害剤を投与して、がん細胞の免疫細胞に対する抑制を制御してやれば、NK細胞やキラーT細胞が働いて、がんの暴走を食い止められるのではないかという発想だ。
日本では京大の本庶佑博士の研究チームが開発に努め、小野薬品工業が日本初の免疫チェックポイント阻害剤・ニボルマブ(商品名オプジーボ)の発売を2014年9月から開始した。最初は「根治切除不能な悪性黒色腫」に対して承認され、2015年12月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」へ適応が拡大され、今後他のがんに対しても適応が拡がると予想される。大腸炎、皮膚炎などの副作用が報告されているが、普通の抗がん剤よりも重篤な副作用の頻度はかなり低いようである。 患者により、効く/効かないの差はあるようだが、効いた場合は、その効果は持続して数年以上に及ぶ場合もあるようで、数ヶ月、せいぜい1年くらいの効果持続期間しかない、従来の化学療法に比べて相当優れているようである。転移がんの患者には朗報と言える。