舛添氏騒動の裏で。マスコミが見過ごす「刑事訴訟法改正案」の危険度

 

改正された刑事訴訟法の中身を簡単に説明しておこう。

「可視化を実現した」と見せかけているのがミソである。法務省の「概要」という資料には、こう書いてある。

身柄拘束中の被疑者を下記の対象事件について取り調べる場合に、原則として、その取調べの全過程の録音・録画を義務付ける。

 

対象事件:裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件

裁判員制度対象事件とは、「死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件」と「法定合議事件であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの」だ。

具体的には殺人、強盗殺人のほか、現住建造物等放火、通貨偽造・同行使、強姦致死傷、身の代金目的略取、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死などがあげられる。

検察官独自捜査事件は、言うまでもなく、警察を経ず特捜検察など検事が直接捜査する事件である。

これまで多くの冤罪被害者が出ている痴漢や選挙違反などは含まれない。なにより問題なのは「任意の取り調べも除外されることだ。

実際には「任意」や「別件」で聴取され、虚偽自白に追い込まれる例が非常に多いのだ。

参院法務委員会の審議で、この問題について意見陳述した浜田寿美男・立命館大学特別招聘教授(心理学)は甲山事件で逮捕された保母の特別弁護人として裁判に参加して以来約40年間、心理学的アプローチで冤罪の問題に取り組んできた立場から、次のように意見を述べた。

一般には捜査官の拷問、暴力でやむなく自白していると思われているが、実際には自ら犯人を演じざるを得ない状況に心理的に追い込まれているケースが多い。日本の取り調べは、謝罪追及型だ。足利事件の場合、冤罪被害者は任意同行の初日から落ちている。被害者の女の子の写真を見せられ「これに謝れ」と迫られる。捜査官から有罪前提で「やっただろう」と追及され、いくら「やっていない」と言っても聞き入れられず、無力感を味わう。無実の人はこの無力感で落ちる。

無力感で投げやりになり「やりました」と言ったあとは、「こいつが犯人だ」と確信を深める捜査官に対して、犯人を演じるしか自分の心を守る手立てがなくなるのだ。

一般には犯行の筋書きを捜査員がつくって語らせるように思われがちだが、自分で想像して語るんです。そして現実には、任意の段階で自白するケースが多い。自白後、オレが面倒見るから心配するなと捜査官に言われ、ある種の人間関係ができた時点で、録音、録画する。それでは、(それを法廷で見ても)虚偽自白は見抜けない。

だからこそ「全過程を録音録画しておかねばならない」と浜田教授は断言する。

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