日本でも人気のスタバはニューヨークでもやっぱり一人勝ちらしいのですが、店員の接客態度が日本とは大違い。にわかに信じがたいその現状を、マンハッタン在住の米国邦字新聞「WEEKLY Biz」の発行人・高橋克明さんがメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』で再現しています。ある意味、コント状態です。
スタバ
コーヒー後進国のアメリカは、結局、どこの州に行ってもスタバだらけ。スタバしかありません。ニューヨークも例外ではなく、いまでこそ「Blue Bottle」だの「Gregorys Coffee」だの話題のシグニチャーコーヒーもやっと台頭してきましたが、店舗数はスターバックスの一人勝ちです。まだまだ「スタバ帝国」の現状を崩せるに至っていない。結局、日本でいうところのコンビニくらい、マンハッタンはどこに行っても「緑の人魚」だらけです。
で、どこに行ってもあるスターバックスが、この時期、どこの店舗も超満員になります。他にないから。冷たい飲み物出すお店が。
なので、アイスラテ1杯に15分くらい待たされることもしばしば。
(中略)
それでも、僕も、みんなも、スタバに通います。理由は繰り返しになりますが、スタバ以外の他の選択肢が極端に少ないから。
話はそれますが、先日、日本の方と話をしてビックリしました。どうやら日本では「ニューヨークはコーヒーが非常に美味しくて、カフェビジネスが進んでいるイメージがある」とのこと。ウエストビレッジやブルックリンのオシャレなエリアは除いて、全体的にマンハッタンで美味しいコーヒーを出す店は日本に比べてかなり少ないです。はっきり言って、この国は完全なコーヒー後進国です。
もともとヨーロッパのような高度なドリップ技術がなくて、ビールくらいしか飲んでなかったアメリカ人が「こーゆーもんだろう」ってマネして作った薄味コーヒー「風味」の失敗作。それを「アメリカン」と呼んで(わざわざホテルの高級カフェでメニューに書いて、わざわざ1,000円くらい払って)ありがたがってるのは日本くらいなもんです(アメリカ人は自国のコーヒーを、アメリカンとは呼ばないしね)。
90年代半ばまで、近所のダイナー(食堂)でオバチャンに出されていた麦茶の出がらしみたいな飲み物が「コーヒー」だったアメリカ人も、シアトルから来た緑の人魚マークのコーヒーショプに「カフェラテ」だの「エスプレッソ」だのを教えてもらいました。だからいまだにニューヨーカーはスタバが大好き。しょっちゅう購買反対デモが起こるほど。
店員は日本のファーストフード店のように親切でもなければ、丁寧でもなく、なにより仕事が遅い。日本と比べて倍以上の店員がいるにも関わらず、どんなに待ってる客の列が長くても、連中、カウンターの向こうでキャッキャッ遊んでます。
気の短いニューヨーカーたちがこの状況でなぜ辛抱強く大人しく列に並んでいるのかは、いまだに僕にもわかりません。前述したように他に店がないからか。あるいは他の店の対応もたいして変わらないから、もう、そういうもんだとあきらめているからか。
先日、そのキャッキャッ遊んでる10人くらいの従業員のあるひとりが、とんでもなく画期的でスゴい法則を発見しました。
「そうだ! 待ってる行列の人たちに、いまのうちに注文を聞いて廻ろう! で、あらかじめ作り始めたら、彼らがレジにたどり着く頃にはコーヒーが出来上がってるわ♪」
日本だと100年くらい前からすでに実践してる接客方法を、人類の新発見のごとく、得意顔で実践し始めました。なんてアタシは頭いいのかしら♪ な空気を出しつつ。
彼女は10人以上の待っている人の列に、注文を聞き始めます。
「アイス ベンティーホワイト モカ フラペチーノね、OK」「で、次の貴方は、グランデ バニラ チャイ ラテね」
メモも何も持たずに、両手の指を折りながら、ブツブツ暗記しながら、僕のところに来ました。
「今日はナニにする?」
「アイス ディカフ トール ソイ ラテ」
僕のオーダーを聞くと同時に「ちょっと待って」と困惑した表情で、先ほど最初に聞いた列の一番前に戻り「あなたなんだっけ?」ともう一度聞き直してます。
「OK、アイス ベンティー ホワイト モカ フラペチーノね…。で、あなたがグランデ バニラ チャイ ラテ…で、あなたがアイス グランデ モカ グリーンティーで…」
「ちがうよ、アイス ディカフ トール ソイ ラテだよ」
訂正すると、機嫌悪い顔になり、もう1回最初から、と、また列の最初の人に聞き直そうと戻りかけます。
慌てて彼女を引き止めた僕は、ある画期的でスマート、最良でスペシャルな提案を彼女にします。
「えっと……なにか、メモかなんかに書いたら?」
日本だと200年前から実践している方法に「なるほど!」と感動した顔。「あなた天才ね♪」とばかりに顔を輝かした彼女はメモとペンを取りにカウンターの奥に戻っていきます。
でも、カウンターの向こうは、オトモダチ(同僚の従業員達)がいっぱい楽しそうに遊んでるフリーエリア。いったん戻ったが最後、彼女は自分のアイデアもメモを取りに戻ったことも忘れて、その集団とまた遊び始めます。
フリダシに……。