世界では、医療用としての使用が認められていたり、嗜好品としての使用を合法とする国も存在している「大麻」。日本では違反薬物として厳重に規制されています。しかし、自身の命を守るために使用した場合でも「違法」とすべきなのでしょうか? メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で池田教授は、日本の「大麻取締法」について「悪法」と一刀両断しています。
アホな法律は国民を不幸にする
最近の日本はコンプライアンス至上主義という名の原理主義が跋扈していて、世も末だと思うことが多い。
最近最も呆れたのは、1.自分の末期がんの治療のために、自ら大麻を栽培して使用し、劇的に症状が改善した男性が、大麻取締法違反で警視庁に逮捕され、起訴された事件と、2.山形県の県立高校の保健体育の女性教諭が無免許で32年間教えていたとして、県教委は採用時の1984年に遡り失職扱いとし、32年間に支給した1億数千万円余りの給与の返還請求を検討しているという事件である。
最初の男性は58歳の山本正光さん。 2013年6月に肝臓がんが見つかり、医療機関で治療を始めたが、2014年10月に余命半年~1年と宣言され、医師から打つ手はないと言われたという。インターネットで海外の事例を検索して、大麻ががんに有効かもしれないと思い、厚生労働省、農林水産省、法務省などに「大麻を医療目的で使うにはどうしたらいいかと」と相談したところ「日本では医療用であれなんであれ、大麻の使用は禁止されている」とにべもない返事をされ、 それではと、製薬会社に「自分の体を使って大麻の効果を検証して欲しい」と頼んだが、当然のことながら、答えはNGで、仕方なく自分で栽培して使ってみたという。
本人の弁によれば、痛みが和らいだほか、食欲が戻り、抑鬱的だった気分も晴れ、腫瘍マーカーの数値が20分の1に減ったという。それを逮捕して起訴する日本国の官僚は、国民の命より法律の方が大事だというわけだ。
厚生労働省の担当者はこの裁判に関し次のように語っているという。
「医療用大麻は有効性が実証されているわけではない上、最先端のがん治療が受けられる日本で、医療用大麻を合法化する必要性は低い。米国では医療用のみ合法化された州、嗜好品用にも合法化された州があるが、実際には医療用のみ合法化された州でも嗜好品として蔓延している。他のより強度な麻薬に手を出す入り口にもなっている」「日本で規制を緩めれば子供などが大麻を手に入れやすくなるなどのリスクが生じる」(産経ニュース2016年4月24日)。
何を言っているのか自分でもよく分かっていないとしか思えない支離滅裂なコメントだ。今の日本では、総理大臣から末端の官僚まで、論理性が全く欠如した答弁が流行っているようで、これで、国民を騙せると思っているとしたら、国民は完全に舐められているよね。
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