コレステロールはなぜ「悪」から「必須」になったのか
コレステロールの取り過ぎが健康に悪いと言われたのは、1960年ぐらいだからすでに50年以上が経っている。当時はコレステロールという名前自体が珍しかったが、食事が洋風になり、動物性の油を採るようになったので、注意が必要だというまことしやかな話が始まり、脂身の肉、コレステロールを多く含む卵などを注意するようになった。
それ以後、多くの家庭では脂身の多い豚肉は避け、鶏肉を食べるときには「ヘルシーなササミをどう調理したら美味しく食べられるか」などを工夫し始めた。ちょっと油の多いトンカツやサーロインステーキなどを食べようとすると「コレステロールが増えるからダメ」と言われたものだ。
一方、コレステロールの研究が進んでくると、1990年頃から、それまで血管に血栓などを作ると考えられていたコレステロールが、実は損傷した血管を修復することがわかり、2種類のコレステロールを「善玉、悪玉」(NHKの造語といわれている)に分けて報道や説明が行われた。
しかし、21世紀に入ると、コレステロールは体内でほとんど合成し(体内合成率は70%といわれ、特に長期の場合は食事とは無関係)、食事の種類を変えても体内のコレステロールは変化がないこと、コレステロールが減るとがんや認知症になる可能性が示唆され、「コレステロールは悪」から「コレステロールは必須」に変わっていった。
この背景には、第1に欧米の検査結果やレベルの低い動物実験の結果を鵜呑みにした、最初のコレステロール排斥が間違っていたのではないかと疑われ、第2に、それが薬の販売の利権とつながっていること、さらには高齢化に伴い認知症などの増大が懸念され、その1つの原因として「低コレステロール」があるのではないかとも考えられ始めたことなどがあげられる。
そして、2015年5月、「コレステロールは食事では変わらない。病的なコレステロールの異常な人は治療が必要だが、一般の日本人はコレステロールが180から260の範囲にあり、治療は不要である」となったのである。メタボの検診の中にもコレステロールが入っていて、一定値を超えると、その人が所属している健康保険組合にペナルティーがつくという罰則もあった。実にひどいものだ。危険を煽って高齢者からお金を巻き上げる「オレオレ詐欺」と、ほとんど同じ手口と言われても仕方が無いだろう。(続く)
『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』より一部抜粋
著者/武田邦彦(中部大学教授)
東京大学卒業後、旭化成に入社。同社にてウラン濃縮研究所長を勤め、芝浦工業大学工学部教授を経て現職に就任。現在、テレビ出演等で活躍。メルマガで、原発や環境問題を中心にテレビでは言えない“真実”を発信中。
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