ディズニーで長年働くアニメーターが開催した「アーティスト・スピーカー・シリーズ」に参加した、メルマガ『Ministry of Film ゼロからのスタジオシステム』の著者・小原康平さん。その席で小原さんは、日米の製作者のある決定的な「違い」を感じたそうで、それが日本の制作現場に横たわる問題点の原因だと気付いたようです。いったいその「違い」とはどのようなものなのでしょうか。
アメリカとの比較。日本の映像制作現場で圧倒的に欠けているもの
ディズニーでは日頃から、社員向けに様々な「授業」を企画しています。「フォトショップ初級講座」「クリエイティブ・ライティング講座」「仕事に活かせるKeynoteの応用術」といったテクニック重視で複数回の参加を要するものから、社内で作品を担当するフィルムメーカーやトイ・デザイナー、新刊書籍の著者を招いての講演会といったものまで、ラインナップは多種多様です。
先日はディズニーで長年働いているアニメーターを招いて、ランチの間の1時間強で自由に語ってもらう「アーティスト・スピーカー・シリーズ」が開かれたので参加してきました。アニメーターとしてディズニーで仕事を得るに至った経緯や、ピクサー作品を含む多数の作品に携わってきた感触などの思い出深いエピソードを語りながら、登壇者は原画用紙にキャラクターを一体ずつ描いてみせていくわけです。その様子は、デスクに据え付けられたカメラを通して、プロジェクターでも大きく映し出されました。
ササっと描いていくキャラクターたちが上手なことは言わずもがな。一度も消しゴムを使わずに、サッと数本のストロークであっという間にニモが、サリーが、ダッシュが、描き上げられていく。
けれどそれよりもこの講演の何に驚くかというと、とにかく話がうまいんですよね、みんな。手を動かしながら、流れるように解説を行うんです。飛ばすジョークの数も多くて、常に聞く側を飽きさせないサービス精神が豊富でした。
中でも印象深かったエピソードは、とある一作の企画段階での話でした。重大なプレゼンテーションでサンフランシスコに赴いたとき、在りし日のスティーブ・ジョブズの前でのプレゼンを彼がするよう、開始5分前になって上司に告げられたという話。それまでの高揚感から一転、血の気が引く苦い思い出になったことをテンポ良く語ると、150人はいるだろう会場内がどっと沸きました。
結局彼がそのプレゼンテーションをどの程度成功させられたのかはわからず終い。その点を濁す辺りのさじ加減も上手なわけですが、そのエピソードを引き合いに出したことで彼が伝えたかったポイントには含蓄がありました。
つまり、
「いつも会議室の後ろの方で野次を飛ばす存在だった自分だが、誰もいつもそうしているわけにはいかない。」
「人前で自分の仕事を語るには、そのあらゆる側面を知り尽くして、頭の中で常に整理しておかなければならない。」
「映像業界のアーティストは、アートを言葉にして語って初めてアーティストたり得る。」
ということでした。
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